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概要

営業の悪魔

1章 うまくいかなければ使い捨て15「うるさいな、知ってるよ」航介はどんぶりをつかんで、わざと大げさに箸はしを動かして飯をかきこんだ。この話題はもう打ち切りたい、という航介なりのシグナルのつもりだった。「お前さあ、紅ショウガ入れ過ぎ。おかずだと思っているだろ。いくら入れ放題でも貧乏くさい真似をするなよな」拓也が呆あきれ顔で言った。航介の飯は赤く染まり、酸すっぱい匂いを漂ただよわせている。「ぼくの場合、下手したら昼飯抜きもあり得るんだぞ。毎日いいアポをもらって外に出られる拓也とは違うからさ、朝セット350円分を味わい尽くすんだよ」「卑ひ屈くつな言い方をしないでさ、テレオペさんを当てにせずに、自分でいいアポを取ればいいじゃないか」「へいへい。風見主任殿のおっしゃる通りでございますね」航介がふざけた態度を見せると、拓也は何かを言いたげな表情をしたが、引っ込めた。「旭あさひ 川かわマネージャーなら本社で会議だから、今日は東京で一泊コースだよ。休憩時間にゆっくり昼飯を食べても、嫌みを言う人はいないから大丈夫だって」「ふうん、マネージャーのスケジュールをよく知っておられますなあ。さすがは同期の出世頭!」航介はおどけて言った。拓也が急に立ち上がった。怒らせたのかと思い、航介は拓也の顔を見上げる。