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概要

営業の悪魔

18け皿になる部署がなければその保障はない。明日、本社の営業推進室の杉すぎ課長に面談に行きなさい。とりあえず一週間は会社の研修施設で寝泊まりしてもらうから、着替えもそれなりに持参するように。わかったな」旭川は一方的に、淡々と告げた。航介は、「はい」としか言えない。「あと十日もすれば新卒が入って来る。南原がいると、営業を三年もやっていてその程度かと、新入社員が希望を持てないんだ。お前だって後輩に抜かれっぱなしでは、新入社員の前で格好つかないだろう」「いいえ、そういうこと……気にしない性分ですから」「そんなお気楽な調子じゃあ困るんだよ!」旭川がテーブルを強く叩たたいた。「少しは気にしろよ。お前みたいに呑のん気きで、鈍感で、使えねえボンクラ社員が、なんで風見と仲がいいんだ。理解に苦しむよ」旭川は苛いら立だった表情で言った後、急に表情をゆるめた。「なあ、南原。クレーム対応のときは、お前の記憶力に助けられた案件があったよな。言った、言わない、でお客ともめたとしても、話がこじれる前に解決できた。お客とのやり取りは、応対履歴として書いて残せることばかりじゃないからな」いつもの癖で、旭川はボールペンを手でもてあそびながら話す。四十にもなって落ち着きのない、子どもじみた仕草だ、と航介は思った。