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概要

営業の悪魔

24初めてである。思い当たる理由を考えようとすると、意識の矛ほこ先さきにもやがかかったような感覚に陥おちいり、ついぼんやりとした。「まあいいだろう。理由などいまはたいした問題ではない」滝沢が仕切り直す。航介がはっとして顔を上げると、滝沢は再び話し始めた。「さらに君が、口が堅くて腰の低い人間であるならば、やってもらいたい仕事がある」「……どういった、仕事でしょうか」航介は緊張のあまり口の中が乾いてきた。滝沢は航介に微ほほ笑えみかけ、「そんなに小難しそうな顔をしなくていい」と言った。「うちが営業会社として急成長を遂げたのは、人事考課の基準や給与待遇を徹底して成果主義に改めたからだ。部下指導のできる者は社歴にとらわれずに管理者に登用するルールを明確化し、業績評価が個人の収入に直結する。おかげで意欲と実力のある人材が定着した。その甲斐あって、うちの会社の営業力は同業他社と比較しても圧倒的に強い」滝沢の淡々とした話しぶりは、航介の劣等感をいたずらに刺激することがなかった。不思議と居心地は悪くはない、と航介は思った。「営業の強い会社だという評判が立つと、販売を引き受けて欲しいと希望する企業が増える。いまや取扱商材は、OA機器、生命保険、英会話スクール、学習教材、健康食品、化粧品、住宅設備、多岐にわたっている」航介はうなずきながら耳を傾けていた。会社に三年はいるが、OA機器販売の事業部から離