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概要

営業の悪魔

1章 うまくいかなければ使い捨て27戸惑っている航介にかまわず、滝沢はたたみかけるように言う。「トップセールスマンに毎日張り付いてもらいたい。対象者は俺が順番に指定する。営業先に同行して、詳細にレポートしてくれ」「わかりました」航介は会話の勢いに流されて、つい返事をしてしまった。「ところで、天才打者イチロー選手は、スタジアムに踏み入れる足を決めているそうだ。知っているか」「何かで読んだことがある気がします」航介が答えると、滝沢は口を一文字に結んでうなずいた。「その類たぐいの話もトップセールスマンの言うことならすべて記録してこい。論理的であるかどうかは関係ない。情報を捨てるのか残すのかを勝手に判断するな。いいな」「……わかりました。そうします」「任務遂行中の君の身分は、営業本部長直轄の特命社員だ。報告はすべて俺にだけしてくれ。レポートを作る目的を誰かに聞かれても答える必要はないからな」滝沢の最後のひとことを航介は疑問に感じたが、黙っていた。滝沢は航介の表情で察したのか、先回りするかのように答える。「辞めていく恐れがあると勘繰った会社の手先が、自分の営業の秘密を盗もうとしている。俺が観察される側なら、じつに胸くそ悪い。君ならどうだ?」