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概要

営業の悪魔

28「後輩の役に立つなら、たぶん協力します」航介が答えると、滝沢は薄く笑って、「君って、いい子だね」と言った。おそらく滝沢の期待した答えと違っていたのだろう。「全体最適を優先してくれる連中とは限らないから、異端児と呼ばれる所ゆ えん以でもある」「はい。言わないほうがよいこと、理解しました」こんどは滝沢も満足そうな表情を浮かべた。「そうでなくてもトップの連中は、自分の営業を人に見せたがらないものだ。営業同行を拒否されても、本部長命令だと言って密着するんだ。いいか、できるか」滝沢の問いに生じた疑問を、今度はそのまま素直に口にする。「どうして嫌がるのですか。いい所を見せられるのって、自慢できると思うのですけど」「やってみれば、わかるさ」滝沢は意味深な笑みを浮かべた。航介は気が重くなり、「……難しそうですね」とうなるように言った。「うまくいった暁には、君に与えるインセンティブを考えているんだよ。人事と報酬の両面だ。二階級特進と特別賞与といったところかな。だから、しっかりやってくれ」「本当ですか。がんばります」うまくいけば首の皮がつながる。それに平社員から一気に主任一級になるならば、主任二級の拓也を抜くことにもなる。航介は想像しただけで溜りゆう 飲いんを下げた気になった。