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概要

営業の悪魔

30「ぼくは、OA機器販売の事業部しか経験がありません。MUGENグループの他の事業部のことは知らないのですが……」「同行につくだけだ。知らなくても支障はない。準備があって忙しいからもう行ってくれ」杉は取り合わず、「ボイスレコーダー、ノートパソコンに、ホテルの手配か……」とひとりごとを言いながら席を立った。航介は、背中を丸めて歩きだした杉を追いかけた。「杉課長、ひとつお訊きしたいんです。最初の面談では何も言われませんでしたよね。ぼくがこの仕事をするということ、いつ決まったんですか」航介の質問に、杉は歩みを止めず、首だけひねった。「さあな、俺もいま聞いたばかりだ。今日面談した配置替えの社員十五人分の書類をもって、本部長に決裁印をもらうつもりで行ったら、そのときに南原航介くんだけを呼び戻せと言われたんだ。俺のほうこそ訊きたいね。なぜお前さんに白しら羽はの矢が立ったのか」「本部長は、ぼくの記憶力の良さを買ってくれたようなのですが」廊下に出てから杉は立ち止まり、航介に向き直った。「そういや、昨日の定例会議で、営業成績が長らく低迷している社員をピックアップしていたんだよ。お前さんの名前が挙がったときに、旭川マネージャーが本部長にお叱しかりを受けたんだ。低迷社員を三年も放置するな、もっと早く見極めろ、とね」杉が目を細めて、困った奴だとでも言いたげに航介を見た。「そのとき旭川マネージャーが、クレーム対応のときに南原が役に立つ、お客に弁済するケー