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概要

営業の悪魔

1章 うまくいかなければ使い捨て33「すみません。お訊きしたいことがありまして」「なんだ。言ってみろ」「本部長がやれとおっしゃった仕事、本当は誰でもよかったんですか」「……何?」「うまくいかなければ、自分は使い捨てになるんでしょうか」航介は、訊き方が唐突すぎたかな、と悔やんだが、吐いた言葉は回収できない。「今どこからかけているんだ。新宿駅?駅のどこだ!」電話の向こうで、滝沢が声を荒らげた。航介は目の前に大手生命保険会社の大きな看板が見える位置にいることを告げた。「よし、そこを動くな、動くんじゃないぞ!」電話は一方的に切れた。誰か人を寄こすのだろうか。わざわざここまで追いかけてきて、ぼくの失言をなじるのか。航介はたまらずにその場にしゃがみこみ、頭を抱えた。十分は経っていたと思う。うなだれていた時間は、たいして長くはないはずの航介の目の前に、不意に滝沢が現れた。息が荒く、肩が上下している。 ─走ってきたの?自分の足で、わざわざ?思わず立ち上がる。みるみるうちに滝沢の顔から汗が吹き出してきた。そりゃそうだろう。電話を切ったとき会社にいたのであれば、全力で走ってこその到達時間だ。