ブックタイトル営業の悪魔
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営業の悪魔
34上着を脱いで無造作につかみ、はあはあと息を整えている滝沢を、航介は不思議な気持ちで見ていた。上長には、呼びつけられるのが普通だ。相手が飛んで来てくれることなど経験がない。滝沢は航介に顔をぐいっと近づけた。「たしかに誰でもいいんだよ。もしお前がやらないなら、代わりの人間を立てるまでだ」電話を切られる直前の、「使い捨てになるのか」という問いの続きである。やはりそうか。航介が滝沢から顔をそむけようとしたそのとき、肩をつかまれた。「聞けよ。たしかにお前は、営業職ではまったく使えない奴だ。だからといって、俺はお前に備わっている能力をすべて否定しているんじゃない。だがな、お前の適性をあれこれ探してやるほど会社は暇じゃないんだ」航介は怒りを含んだ滝沢の目つきに恐れをなして後ずさりしたが、背中が壁に当たった。「お前は自分のことを取り替えのきくネジか歯車だとでも思っているのか。卑屈になるな!使い捨てにされるかどうかなんていうことは、お前次第だろう」滝沢は、まっすぐに航介の視線を捉とらえて離れない。「お前はいままで上司に飼い殺しにあっていたんだぞ。お前は記憶力の良さを自分が報われる仕事のために使ったのか」滝沢は両手で航介の肩を強くつかんで揺さぶった。「どんな仕事だってな、失敗すれば自分でケツを拭ふかなきゃならないんだ。やる前からグダグ