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概要

営業の悪魔

81 真夜中の悶もん絶ぜつ ─考えるな、考えるな。頭をからっぽにして眠るんだ。掛け布団を顔までおおい、南なん原ばら航こう介すけは息苦しさをこらえて堅く目をつぶった。寝床に入ってから、小一時間は経っただろうか。航介のまぶたの裏に、本日最後の失敗シーンが流れ始めた。脳内スクリーンの中で航介は、JR大阪環状線の弁べん天てん 町ちよう駅を降り、海側に向かって歩いていた。日増しに暖かくなってきたとはいえ、陽ひが傾きだすこの時間は肌寒い。航介はスーツの上着の前をかき合わせた。吹きつける潮風にときおり混じる鉄サビの臭気が鼻び腔こうを刺激する。大阪港を望む阪神工業地帯の一角にあるこの街では、工場から出る粉ふん塵じんがいつも舞っているのだろう。目指していた会社は大通り沿いにあった。昆こ布ぶ田た運送㈱と墨書きしてあるすすけた木製板を確認し、敷地内に入る。奥に建つプレハブの平屋の前に立った。控えめにノックをして、ゆっくりとドアを開ける。室内は十坪ほどはあるだろうか。アースグリーンの作業服を着た浅黒い肌の中年男がひとり事務机に座っている。彼こそがアポの相