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概要

営業の悪魔

1章 うまくいかなければ使い捨て11「ほうか、ほんならもう新人ちゃうねんな。ほな、よぉ勉強しときや。得するんなら検討するし、高かったらまたっちゅうことや」昆布田はそう言って、ふんと鼻を鳴らした。「それでは後日に見積書をお持ちしますので、ご検討をよろしくお願いします」と航介が型通りに言うと、「べつに慌ててへんし、いつでもええで」と昆布田は素っ気なく言った。 ─見込み、ないな。航介はアポ内容のお粗末さを呪のろった。航介が最後の挨あい拶さつをして立ち去ろうとしたとき、「あと、ひとつ言うとくけどなあ」と、昆布田が呼び止めた。「兄ちゃんのアクセント、間違うてんで。コブタのブで、音は下がらなあかんのやで。若い子らが言う『カレシ』やのうて、わしらオッサンが使う『カレシ』と一緒や。な?コ・ブ・タ。わしは串くしにぶっ刺されて、コロコロと丸焼きにされるアレか?」「はっ、いえ……」「言うてみ?」「コ・ブ・タ……様……」「そやろ。子豚とちゃうんや。わかったな!」昆布田はぷいと横を向くと、「ほんまに失礼なやっちゃ」とぼやき、首筋を掻かいた。ふと見ると、昆布田の耳の下には太マジックで描いたような大きなホクロがあり、真ん中から太く長い毛が生えている。三センチはありそうだ。こいつは首筋を掻いているのではない。