ブックタイトル営業の悪魔
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営業の悪魔
12指でホクロの毛を撫なでているのだ。航介の脳内スクリーンに、微妙にうねったホクロ毛にピントの合った豚の顔が大写しになった─。「ぐわああぁ!」叫んだ途端に正気にかえった。一瞬の間があき、薄い壁がドスンと鳴る。「ごめんなさい……」アパートの壁向こうの隣人に向かって手を合わせ、航介は再び寝床に倒れ伏した。2 チキンハートは可能性をふわっと残したがる「その話が航介の創作じゃないなら、専門医に相談したらどう?さすがに毎晩っていうのは尋常じゃあねえよ」通勤途中にある牛丼屋で、風かざ見み拓たく也やは笑いをかみ殺した顔で言った。「作り話なんかじゃないよ。それに、どこも異常はないってば」航介は前髪をかきあげた。長めにカットした前髪がさらりと落ちる感触をたしかめる。悪夢の話が一段落ついた航介は、小鉢を手前に引き寄せて生卵をかきまぜた。「隣にも声が丸聞こえなのは、航介んちがなんちゃってコンクリートの木造モルタルだからだ