ブックタイトル謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

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概要

謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

15 第一章 親子の物語としての源氏物語好人物の后きさきであったとしても、ニコニコして平気でいられたはずはないのである。そのぶん、弘徽殿の「悪さ」は、割引して考えておかなくてはいけない。もしこれが弘徽殿でなくて、「あなた自身」だったらどうなのか、と、そのようにぜひ自問してごらんになるとよい。だれしも、もし自分の子どもの出世の道を閉ざし、自分の家族の将来を台無しにしようとする人間が目前に現われたら……そう思ってみたら、だれがいったい安閑として「善人」でいられるだろう。どんなことをしても、その障しよう碍がいとなる人間を排除したいと思うだろうし、そのためには、鬼にだって蛇じやにだってなるかもしれない。しかもその「敵」は、最高の美と教養と天才と、おそろしいほどの声望とを一身に集めている。ここにおいて、弘徽殿女御の焼けつくような焦りは、だれにも容易に想像できるかと思う。万事は、そのようなところから発想しなくてはなにもならぬ。私の読むところ、弘徽殿女御の桐壺更衣に向けられた敵意は、「恋の物語」のタームにおける嫉妬心ではない。そうではなくて、明らかに「親子の物語」における切実な自己防衛にほかならないのである。しかし、さすがに主人公の源氏は、強い。いかに呪いたてようとも、なかなか消えうせてはくれぬ。