ブックタイトル謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

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概要

謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

19 第一章 親子の物語としての源氏物語束された流浪であった。桐壺帝の亡霊の導きなどを得て、源氏はやがて中央政界に返り咲くのだが、そうなれば、弘徽殿はもはや源氏に敵するすべをもたぬ。あとは、源氏の圧倒的な威勢に押されて零落していくほかはなかった。やがて弘徽殿女御は、病に冒され、権威も失墜し、天下は源氏の息子、冷れい泉ぜい帝ていの御み代よとなりして、昔日の勢いは見る影もなく落ちぶれていくのであった。それは、源氏の執念深い復讐の結果だとも言える。そして老残の身を朱雀院の御所に養っている弘徽殿の姿が、「少おとめ女」の巻の終わりのほうにちらりと出て来る。そこでは、朱雀院に行幸した冷泉帝が、院の御所に隠居している弘こ徽き 殿でんの大おお后きさきに丁重な挨拶をして帰るのだが、源氏は、いかにも慇いん懃ぎん無ぶ 礼れいに形ばかりの挨拶をして、さっさと引き上げる。大勢の供人を従えて賑にぎ々にぎしく引き上げていく源氏を見送る大后の心はなお穏やかでない。こんな身の上になって、源氏に軽んじられるばかりでなく、俸禄などもなかなか思うようには支給されないなど、彼女の晩年は決して幸福ではなかった。「命長くてかかる世の末を見ること」