ブックタイトル謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

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概要

謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

22分のような田舎者が源氏の御殿に入れば、辛つらいことばかりあるに違いないと思ってなかなかウンとは言わない。しかし、度々の懇こん請せいに負けて、明石の御方はついに母方の祖父の持ち物であった大おお井い川がわの別邸まで上ってくる。このとき、明石の御方は、娘の姫君と、母の尼君までもともなって上京してくる。すなわち、明石の在ざいには、老いた入道ただ一人が取り残されるのであった。その別れの場面は、「松まつ風かぜ」の巻に出る。秋のころほひなれば、もののあはれ取り重ねたるここちして、その日とある暁あかつきに、秋風涼しくて、虫の音ねもとりあへぬに、海のかたを見出だしてゐたるに、入道、例の、後ご夜やよりも深う起きて、鼻すすりうちして、行ひいましたり。いみじう言こと忌いみすれど、誰も誰もいとしのびがたし。若君は、いともいともうつくしげに、夜よる光りけむ玉のここちして、袖よりほかには放はなちきこえざりつるを、見馴れてまつはしたまへる心ざまなど、ゆゆしきまで、かく人に違たがへる身をいまいましく思ひながら、〈片時見たてまつらでは、いかでか過ぐさむとすらむ〉と、つつみあへず。「行く先をはるかに祈る別れ路ぢに