ブックタイトル謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

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謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

27 第一章 親子の物語としての源氏物語の淋しい海辺の里に居残るのだ。ここで一ひと度たび別れては、愛する者たちと、今こん生じようの別れとなるやもしれぬ。そういう恩おん愛あいの情じようの極まるところを、こうした場面は切々と訴えてくる。しかもなお、悲しい別れは、それだけでは終わらなかった。こんどは、大井川の別邸に入った明石の御方に対して、源氏は、「もしそなたが二条の邸に入るのを拒むなら、せめて姫君だけでも差し出すように、決して悪いようにはしないから」とかきくどいて、紫むらさきのうえ上に養育を肯うけがわせ、ついにその姫君を受け取りにやって来る(「薄うす雲ぐも」)。この雪すこし解けてわたりたまへり。例は待ちきこゆるに、さならむとおぼゆることにより、胸うちつぶれて、人やりならずおぼゆ。〈わが心にこそあらめ。いなびきこえむをしひてやは、あぢきな〉とおぼゆれど、〈軽かる々がるしきやうなり〉と、せめて思ひかへす。いとうつくしげにて、前にゐたまへるを見たまふに、〈おろかには思ひがたかりける人の宿世かな〉と思ほす。この春より生おほす御み髪ぐし、尼あまそぎのほどにて、ゆらゆらとめでたく、つらつき、まみの薫かをれるほどなど、言へばさらなり。よそのものに思ひやらむほどの心の闇おしはかりたまふに、いと心苦しければ、