『出逢いが
足りない私たち』

定価600円 
絶賛発売中!!

斎藤学(さいとう・さとる)先生は、依存症や家族の機能不全に関する研究の第一人者として活躍している精神科医です。今回、かねてより斎藤先生の本の読者である内田さんからのラブコールで、この対談が実現しました! ホルモンの話から家族の話まで、興味深い話題の数々をお楽しみください!

斎藤:この本に出てくる子は仕事、仕事って、なかなかカタカナ仕事も大変ですね。内田さんは心配ってないの? フリーでやってきて。
内田:私の場合、幸運にも仕事はないのが心配じゃなくて、きすぎるのとトラブルをどうするかっていう悩みが多かったですね。
このイラストレーターの卵みたいな目にあったことは?
最初からないですね。デビューまでは「変わってるからなあ」とかは言われましたけど。
仕事のあるないは才能によるのかな?
私セックス描くの平気だったから、それだけで若い頃は一挙に仕事がきて。
でもそれだけが理由じゃないでしょ。切り口とかも大事だよね。
私のほかにも何人かポルノ作家で女性はいたんですけど、私は「描き方が珍しい。普通のことのようにセックスを描き出した」ってインタビューなどでは書かれましたね。ぬけぬけと、っていうか。
男より女のほうが度胸がいいのかな。どうしようもなくなったら堅実なサラリーマンと結婚すればいいやって思ってたりするのかしら。
デビュー前、大手の出版社に持ち込んだときに、「あなたみたいな人は堅実なサラリーマンと結婚してから好きな漫画に進みなさい」って言われたことありますよ。
男の人らしい説教だね。
いや、女の人なんですよ! 非常に保守的な人で。
そうなんだ(笑)。私、今度初めてフリーランスになるんですよ。もっと本を書いたりしたくてね。
わ! それはすごく楽しみ!
前にチャンスがあったときは自信がなくて開業しちゃったんだけど。
自信がなくて開業! こんな話初めてききましたよ私(笑)!
開業すれば人がくるのは当たり前でさ。その代わり拘束がいろいろある。医師免許使って開業してると監視の目があるんだよね。もとからそういうのがイヤで大学逃げたりしてたんだけど、「好きなことやってて苦労が足りない」ってみんなが言うから「私だって患者診られる」って思って開業したんだよ。
でも先生、開業前からホームレスの人たちを調査したり、大変なことなさってたじゃないですか。
でも私自身がホームレスになったわけじゃないしね。開業した10年は濃かった。患者の命をお預かりすることだからね、自殺にしろ何にしろ。リサーチャーだった頃は長袖者だった。長袖者って医師、坊主、公家。袖をヒラヒラさせてて働かない人のことね。開業のときに私のかつての同僚に「これからは組織の名じゃなくて直接やられるから気をつけなさいよ」って言われて、確かにそうだった。それまでは東京都や国が守ってくれてたんだね。
そうなんですね。
私の感覚だと自分の名前が知られることがイヤなんだよ。その点、内田さんや中村うさぎさんはえらいよ。私みたいに小心者で組織に寄生してきた人間からするとね。私、開業するとき「下半身裸で群衆の中にいる夢」を見ましたもの。これは定型夢のひとつで、恥に関する夢でね。なまじ夢判断の本とか読んでるから「見ちゃった」って思ってね。
自分ですぐわかっちゃう(笑)。
自分を顕在することにためらいがある時に見る夢。そういう夢は群衆である他人はしらっとしてるのが特徴でね。
先生、ご本名ですしね。私は本名じゃないから。
タヌキとかにしておけばよかったかな。うさぎなんて可愛いものじゃなく。
毛利子来さんとかぶるかもしれないので別の方向で考えましょう(笑)。
斎藤:今はネットの世界もすごいことになっているようですね。うちのクリニックのことも医師の名前を伏せ字にして書き込んであったりね。脅迫状は慣れています、精神科医は。年に2人くらいは変な人に出会っちゃう。
内田:私が講演会行ったときも来ましたよね。「内田が出たら暴れてやる」ってファックスで。
あ、講演前にありましたね。内田さん心配そうな顔してた。
私ひとりならいいんですが、子供がいると子供を守るっていうことを一番に考えるので。斎藤先生も命がけっていうか...。
だから私は電車に乗らないんですよ。この10年はずっとそう。医者やめる理由のひとつは、そういうのが嫌になったっていうのもある。あと「エロトマニア」っていう人たちがいてね。被愛妄想、「私は愛されている」という妄想を抱く人たちのことでね。こっちはみんなに話しているのに「私を好きだから私に話している」って思い込んじゃう。そういう人はファンタジーで生きているから実物はどうでもよくて、私に恋愛感情を持ってしまう。私もだんだんこれは病気だってわかってきてね。振り切るのが大変なんですよ。精神科医はみんな経験あると思うけど、色々自衛してますね。
ーーー「ボーダーライン」という精神の病も聞きますね。
BPD、ボーダーライン・パーソナリティ・ディスオーダー。トラブルを起こす困った人たちです。NPDはナルシストね。
ナルシストも病気のうちですか?
ナルシストに攻撃性が加わるとBPDになる。ナルシストはあまり事件は起こしません。でも移行がありうる。怒らせるとBPDに。
プライドを傷つけると。
そう。だからナルシストも一応要警戒ね。ただ本当のナルシストって出歩かなくなるんですよ。「回避性人格障害(avoidant personality disorder)」になるんです。
世の中には傷つくことがいっぱいでしょうからね。それでこもっちゃうのね。
そう。そうなると、もちろんクリニックにも来ませんしね。かえってやっかいなんです。で、彼ら彼女たちは謙虚かっていうとそんなことなくて、自意識で満杯になっている。
しゃべると頭が高い。
そう。独りの王国を作ってしまうから。この漫画にもちょっとそういうところ出てきますよね。ネットの世界でね。
私が香山リカさんから聞いた話では、ネットでHP作っているだけで香山さんに「僕のこと知ってますよね」って話しかけて、香山さんが「知らない」って言うとすごくがっかりする人がいるって。そこから始まっちゃうと大変だなって。
やっぱりファンタジーは誰にでもある。人間はファンタジーで生きていますからね。だから自分のファンタジーが問題なく作れて、リアリティがあまりない世界で生きていけるとなると、みんなそこに入っていっちゃう。例えるなら部屋の中にコタツがあって、そこに寝転がって蛸足でいろいろなものがある状態で。
蛸足(笑)。何でも手が届く世界ですね。
そう。暖かくなったり、テレビがあったりして。それってまさしく子宮なんですよね、コードでつながっててね。
斎藤:描けない人間からみると、こういうのが描けるってすごいことだよね。この漫画は最後は崩壊していくけど、ここでパサッと切っちゃったっていうのは意味があるの?
内田:これは結局、誰にも起こるかもしれないっていうようなところに話を落とした、っていうことかな。タレントの女の子とイラストレーターの卵の女の子っていうのは関係はないのに、何だかの感情移入があって、あまりにもその人に関心を持ちすぎてこういうことに。まあホラーみたいなもので、ネットの電波を通じて混じったり吸収されたり、っていうようなお化け漫画ですね。
すごくクールというかシュールだよね。なんて言うか、ベタでいく人には難しいよね、この怖さを楽しむのって。わかる人にはいいんだけど。私が読んだ限りでは内田さんの今までの作品とはちょっと系統が違うような気がしたな。
私本当はあまりインターネットのこと知らないんですよ。でも悪口がいっぱい書いてあるようなところをちょっと見たときに、「このエネルギーは発電とかに使えないのか!?」っていうくらい何だかすごいものが渦巻いていて。
あれってやっかみなんですかね? 憎しみっていうか。
読んだ人が傷つくようなものですよね。きっと私のことも検索するといっぱい出てくるんでしょうけど、書く人と関わらないようにって。
インターネットって、私たちのコミュニケーション手段としてね、人間の精神に何かを付け加えてくれるものなのか、あるいは崩壊のプロセスに招き入れてしまうものなのか、知りたいとこでしょ、みんなね。
斎藤:私のクライアントたちが私の臨床活動とは別に、セルフヘルプ的なグループを作ることがあるんですよ。最近できたのがセックス・ワーカーたちのグループ。これはたちまち5~6人きました。彼女たちの話を聞くと、やっぱり「悩んでる人を助けてる」っていう感覚が強いみたいですね。お母さんがナースだったりして、職種としては一緒っていう感覚。でもそれでもやっぱり悩むわけですよ。なぜこうなったのかってレビューしてる。そういうこと始めると、必然性を感じるみたいですね。
内田:なるほど。
私、人がやってることでムダなことなんてなにもないって思いますよ。そういう人にはそういう時間が必要だったんだなって。売春も、もしそれやってなきゃもっと悲惨なことになっただろうって。くだらない男と付き合っちゃったりね。こんなこと言うと内田さんに悪いかもしれないけど(笑)。
いえ大丈夫ですよ(笑)。
彼女たちの理屈だろうとは思わない。みんな率直だし、複数の人がそういうしね。
人って「関係したくらいの人じゃないと話したくない」ってことあるじゃないですか。私の場合は「売春の仕事をします」と言ってしたわけじゃないけど、母が私を義父に差し出した。なのでそういう言い方をするなら実際そのときに私が救っていたのは母だなあって思う。母は話をしようとしても逃げちゃうし、今は自分の子に被害が及ぶといけないので連絡とらないままなんですけどね。だけどカラダを売るのってやっぱりお金もらえなければやらないわけですよね。
私が話を聞いた人の中には、19歳から2年間の売春の経験の中で、最初の1年はお金をもらわなかったって人がいたよ。
え、ホント!?
父親の歳以上の人とデートしてね。お金もらわなくて。寂しかったんですよ。
うーん、私の想像ですけど、彼女は自分の父親を見て「なぜ?」って思ったときに、他の男の話を聞いてみたいって思ったのかも。私、10代の頃によく妻帯者と付き合っていたんですよ。ホステスやってたから知り合うのはそういう人だったというのもあったけど、すごく好奇心ありましたね。今から考えたら30歳なんて奥さんがいても若者なんだけど。
そうだよね30歳っていったらね。若者だよね(笑)。
斎藤:内田さんは先駆者だけど、これからいわゆる意外婚っていうのが増えますよ。
内田:意外婚?
普通は婚姻相手の対象として考えないような相手と結婚することでね。国外から相手をっていうのは当たり前で、違法になるけど17歳以下まで視野に納めたような結婚。日本だと17歳以下は児童虐待になっちゃうけどね。『金閣寺』(三島由紀夫)のお坊さんじゃないけど、実は自分の母親世代が性的に好きだっていう人なんかもたくさんいるんですよ。年とった女の人をエロティックに感じる。
ーーー熟女ブームってありますよね。
うん、日本の女の人は若すぎるから、西洋からすれば。
世界一若く見えるらしいですね!
あなたなんて少女で通るよ。
私イタリアで27か28歳のときに15歳くらいって言われて、「全然嬉しくないよ!」って思ったんですよ。
ははは、見えるでしょうね。これから意外婚は増えていくと思いますよ。僕らが考える「普通は」っていうのは実はファンタジーにすぎないでしょ? それがファンタジーだってわかれば、自分にとって快適なものを求めようということになりますからね。だって本当は異性愛と同数くらい同性愛がいたっておかしくないんだよ。特に女の子なんて母親に愛されて育って、10~11歳くらいまで毎日お母さんと顔付き合わせて「学校でこういうことがあってね」とかってやるわけでしょ。これが男の子だと「暑苦しいからあっちいってなよ!」って言われちゃうんだけど。男の子はこうして一度母に捨てられるけど、女の子はお母さんベッタリで同じ布団で寝ているような期間があるんだよ。
確かに娘のほうがベタベタしますね。
性ホルモンが出るようになるとお母さんにやたら反発するようになってくるんだけど、その時期すぎて向かう相手が女性だってまったく不思議はないんだよ。世の中にこんなにレズビアニズムが少ないのって、まったく社会的な圧力によるんじゃないかと思う。放っておけばもっと多くの人間がそっちにいくはずで、直線的に異性愛にいくことのほうが不思議。
なるほど。
自由になればなるほど、このほうが気楽だよねって方向になる。男性の場合もそうだけど、女性もこの先もう少し同性愛に寛容になっていくと思うんですよ。そうすると稼ぐ人と寄りかかる人の分け方が、男と女っていう分け方よりも合理的になる。今までみたいに「稼ぐ人は男で、異性婚」じゃなくなっていくんじゃないかな。
内田:先生、授乳のときってオキシトシンが出てるっていいますよね。
斎藤:そう、多産の人なんて「オキシトシン依存」みたいなもんなんですよ。
オキシトシンってオーガズムの後に出るホルモンですよね? そのホルモンが分泌間際に出るっていうことは、じゃあ授乳中の人はイキっぱなしってことですか? 私それ聞いたときすごく恥ずかしかったんですよ。母乳あげながら仕事とかしてたので、それじゃあ私セックスしながら仕事してるようなものじゃないですか。
うーん、オキシトシンっていうのは慈愛のホルモンで、性行動のときのホルモンとはまたちょっと違うんですよ。子育てと性行動ってのはアンチ、違うわけですから。性愛のときのホルモンはドーパミンとかですね。どっちもエロスには違いないと思うんですけどね。イタリア人っていうのはそういう感覚がすごく鋭いんですよ。何かっていうと授乳しているマリアを描くでしょ。信仰としちゃってる。
そうなんですね。男の人もオキシトシンに近いホルモンって出るんですか?
もちろん男も出ますが、男の場合はトレーニングしなきゃいけないんですよ。愛するものに対する慈しみとかを覚えないとね。
じゃあオキシトシン状態を知らないまま死んじゃう男もいる?
そう、だから男に自分の中の女性性を自覚させるとか、育てる喜びとか覚えさせるって大事な話でね。
なるほど。あと先生、男の人って「自分の中に何かが入ってくる感じ」ってわからないじゃないですか。お医者さんで検査とかしない限り。それを経験した人としてない人って、やっぱりその後の考え方に影響するっていう話があって。
でも男は私くらいの年齢になるとみんな前立腺肥大の検査でさ、やられちゃうよ。
その検査のときってうっかり...。
私なんて後輩の医師にやられたから、頭が上がらなくて。
このギャグにどう対応すればいいのか...。笑っていいのかすごく悩みます(笑)。
あと女性化乳房っていうのもあってね。アルコール飲んでて肝臓が悪い男って、エストロゲンの分解ができなくなるんですよ。すると乳腺が発達してくる。アルコール飲む人って「男一匹」みたいなこと言いたがるんだけど、実はおっぱいが出てくるんですよ。
うわー、そうなんですか!
エストロゲン代謝は加齢にしたがっても悪くなっていくので、老化した男性は女性に段々近くなる。私も10年近く前から「斎藤先生のおばさん化」って言われててね(笑)。妙にフェミニズムに親和性を覚えたり、「日本の子育てを考えよう」っていう話になったりね。それで内田さんとも知り合って。
おかげさまで! あの先生、前立腺の検査って何回もやるんですか?
いや1回でいいんですけど。その時、大腸のX線透視もやって、こちらでは肛門からゴムを入れられて、そのゴムの末端を丸く膨らませるんですよ。入れた造影剤が出ちゃわないように。
大変だなあ。
痛くはない。私も立ったらどうしようって思ったけど、そんなことなくて。でも快感もなかったよ。
ーーー医師も熟練だから、そうなりそうなところを刺激しないようにするんじゃないですか?
わかんない、想像もできない。想像してるけど(笑)。あの私、中学生のとき虫垂炎で後ろを調べられたんですけど、それが信じられないほど痛くて。そこの力が抜けるかどうかっていうのは嗜好の問題とかもあるんじゃないでしょうか?
筋肉に力いれちゃうから痛い。本来は大きなものが出てくるところだから大丈夫なはずなんだけどね。
「えっ!」て思って力入れちゃうと痛いんですね。女の人は最初のセックスのときもそうだなあ。
それにしても必尿器科の連中はすごいよ。1日中、朝9時くらいから人のケツの穴つついてるわけでしょ。「ご説明いたします」ってゴム手袋脱いでさ。「不思議な仕事だよなあ」って思ったよ。
でも先生のほうも「1日中、狂人の話聞いて」って思われてますよ(笑)。
はははは、不思議な仕事だよね(笑)。
内田:竹内久美子さんの本ではテストステロン値が一番高いのは役者だと書いてありました。スポーツ選手より高いんですよね?
斎藤:そうですね。テストステロンっていうのは大きく分ければドーパミン系のホルモンなんですよ。睾丸から一番多く出て、女性の場合は卵巣からも出ますね。で女性の性欲を決定してるのはこのテストステロンなんですよ。エストロゲンじゃなくてね。
じゃあ私はドーパミン系が強い方なんですね。
うん、あなたはドーパミン系の人なのかな。ドパミナジック・パーソナリティ。
そんな言葉があるんですか?
ないけど私が作った(笑)。
やめてー(笑)!
セックスを誘導するのはアドレナリンとか他のホルモンで。テストステロンも性的誘惑とかには役立つけど、射精後に高まるのはドーパミン。女性もそうだと思いますよ。エクスタシーの後ではドーパミンが出る。
「やったよ」とか「イったよ」ってことですね。
うん。そうやって達成感に快感を覚えるような人は頑張るタイプの人だね。
その時オキシトシンはどういう働きを?
そういうときは無力ね。達成感感じようってときに慈しみとか関係ないじゃない。全部出しちゃった後に「万物みな可愛い」とか、そういうふうに思わせるのがオキシトシンだから。達成感感じようってときにそうなっちゃったら作品なんて書けないし、オリンピックでも負けちゃうしね。
私、第2子を産んだ後、漫画でセックスシーンを描くのが大変で。
授乳中は頭そっちにいかないですからね。
ところが2人目以外の時はセックスも描けるんですよね。第2子のときは弱ってたんでしょうね。でも普段はドパミナジック・パーソナリティかあ...。
性欲を強くする方法は、...ってさらに強くする必要ないですけどね。
はい、強くする方法教えてください(笑)。
ドーパミンと同じ物質っていうのは外部にあって、それは「シャブ(覚醒剤)」なんですよ。
シャブ! 私、自分で意識したところなんですけど40歳前から、怒りが性欲につながることが多くなって。
それって私がよく聞く、シャブ中の女の人によく似てるね。
Y(担当編集)、なぜメモする! しないでよ(笑)! 夫と付き合い始めたきっかけもそうでした。みんなで飲み屋に行ったときに友人の女優が役者にからまれてもめて、私すごく頭にきて「帰る!」って。で、ついてきた夫に「セックスしようか」って誘って、それが始まりなんです。
そうだったんだ。
あと女優の仕事で、男の怒りが爆発しているときに私が「やめてー!」って止めようとして押し倒されるっていうシーンがあって、その時は「そんなバカな」って思ってたのに、自分が同じことやってるんですよ! その脚本家、女性だったのに何でそんな感覚、知ってるんだろう。
レズビアンの間でも攻撃性が問題になるパートナーシップってあるんですよ。女性だけど男のバタラー(殴る人)みたいになる人がいる。でもそれはほとんど覚醒剤乱用してる場合でね。
私やってないですよ。
やってないと思いますよ。もとから強いから必要ない。
必要ない! そっちのほうがショックー(笑)!
男は生まれつきのドパミナジック・パーソナリティ。達成感がないと段々憂鬱になっていくのね。
私の夫もそういうとこありますね。仕事のない時期をどうやって過ごすかって。
鬱状態のときに一番いい処方ってね、怒らせることなんですよ。何か正当な理由与えてね。ゴミ出し奉行とかやらせると正当な怒る理由ができて元気になっていく。怒ると憂鬱な感情がふっとぶし、アドレナリンも出てくるし。「セロトニンでいい子いい子しましょうね」っていうのが効かない人は怒らせるといい。
アルツハイマーのおばあさんでずっと怒ってる人がいますよね。私が見た人は50代で発症して。
じゃあ初老期だね。
国から治療費とかがおりなくて大変だったと聞きました。
早発だとね。エネルギーが空回りするから。怒りっていうのは方向性が与えられるものなのね。だから溺れる者が藁を掴むように、怒りに頼っちゃう人もいるのね。
そのおばあちゃまの部屋は犬が横に寝てて、子供が歌う童謡がずっとかかってるんですよ。で、ずっと注意書きが部屋中に貼ってある。「お世話をする人が休みの場合、休みですとは言わないでください」とか、部屋中お経のように貼ってあるんですよ。
それもすごいね。
で、おばあちゃまは寝てるんですけどいきなり「●×□▲☆~~!!」って怒るんですよ。部屋にいてつらかったですよ。そこお寿司屋さんなんですけどご主人は元気で、ご主人のお母さんかと思ったら奥さんだったんです。
可哀想ね。怒りっぽい人って基本的に憂鬱な人だっていうのが私の意見なんだけど。怒りっぽいアルツハイマーは、デプレッション、鬱病みたいのが重なってるんだと思う。お母さんでも児童虐待するような人だと基本に鬱病があることが多いんだよね。内田さんのように世に作品を出していくような人はいいよね。集中する時間をもつことが治療になる。怒ってると線なんてひけないからね。まあ日本中漫画家だらけになっても困るんだけど。
斎藤:あと話が飛ぶようだけど、この本の面白いところは比較的早い段階で姉妹葛藤の深刻さが描いてあることだね。これね、我々から見るとすごく面白いテーマで。お母さんが長女飛び越して次女とくっついちゃっててね。
内田:あ、うちがそうだったんで。
ああ、実体験か。
多少ね。母は妹がすごく可愛かったみたいです。私はこの作品のお姉さんと違って稼ぎ手になったので、実際はちょっと違うんですけどね。母は私にお金はくれって。
葛藤する者ってよく似ている同士だとライバルになる。で同じ共通の目標があると3角形になる。
お母さんで「小さい子のほうが可愛い」って人多くないですか?
多いね。大昔に患者から聞いた話だけど、お父さんが短気な人で、長女抱っこしたままお母さんをけっ飛ばしたのね。でその時お母さんが長女を見たら長女がちょうど笑っていた。こどもはもちろんお母さんを嘲笑ったわけじゃないのに、それでお母さんに恨まれて、なんのかんの理由つけていじめられたりして。「あなた、どうしてそんなに長女に冷たいの?」って聞いたら、ポロってこういう話が出てきてね。人ってこういう風にわけのわかんないことでひどい仕打ちされたりするんだなって思ったよ。
斎藤:今の若貴騒動なんだけど、「あの構図についてコメントしてくれ」って依頼がきてね。まず私が思ったのは『カラマーゾフの兄弟』。あれって父を殺すんだよ。父イコール神になっちゃっててね、ようするに神殺しの話。若貴の場合、神様っていうのは相撲道のことで、弟はその道の狂信者。そしてお兄さんは神を捨てちゃった背教者。すごいカラマーゾフ的なんだよ。
内田:なるほど。
狂信者で困るのは、お父さんが神様だったときはいいんだけど、お父さんと神様の間に違いが出てくるとお父さんを責めるのよ。「私はお父さんに教わった通りにやってるのに、あなたはその通りにやってない」って。オヤジは嫌だよー、こういうの。「確かにそう言った、そこまでやれとは言わなかった!」ってね。
先生はなぜカラマーゾフを?
息子と父の関係っていうのに興味があって。男はヘンじゃないかって思ってね。で今読み直してるんですよ。ああいう兄弟葛藤っていうのは実はずっと昔から繰り返されてるのね。でも若貴については「モデル家族の崩壊」とか「時代が変わった」とか、そういう社会心理学的な分析が多いでしょう。時代のせいにしちゃうと話は面白くなくなるんだよ。私は生物学的にとか、人でいることの宿命というか、時代や民族や国家や文化に関係なく通用する論理が好きでね。女性は道義とかはあんまり気にしないよね。でも男はそういうものがないと駄目。
男の一番の道義は?
「女房子供を食わせる」っていうもの。男道だね。男は「妻子は自分に頼ってる」っていう幻想の中にいないと不安定で不安定で、「自分は生きててもしょうがない」ってなっちゃう。
まさしく、お義父さん...。私、今一番夫のお父さんのことで大変なんです。
老後の問題で?
いやピンピンしてます。非常に支配的で(以下、お義父さんの具体的な言動の説明が続く。詳しくは小社刊『ほんとに建つのかな』をご参考のこと!)。
なるほどねえ...。あなたのとこのお舅さんは自分の位置を保つために、カタチだけ自分を頂点にしている。だから彼は悪気はなくて、あなたを含めてみんなが自分を頼ってくれないと自分が駄目になっちゃうんですよ。
うーん、何となくはわかるんですけど。でも私のうちは家計を支えているのは私だし。お義父さんとは関係ないのに。
男達が今困っているのはそれなんだよね。男は「弱い女に頼られて男を演じる」ってことを一種の道義にして何とか男をやってきたんですよ、つい最近まで。だから今、困っちゃってる。
ーーー頼られなければ男として生きていけない、でも実際柱になっているのは女で。
そう、伝統的な家の担い手は女なんですよ。頼ってくれる人がいないときの男って脆いですから。『カラマーゾフの兄弟』ではお母さん早死にしてるの。あそこに厳然と女が立っていると事件はおこらない。
お友だちの演出家の木野花さんもカラマーゾフに入れ込んでて、お芝居にしてるんですよ。
あれ芝居にしたらいろんな切り口あるからね。私が凝っているのはこの1年ですね。
先生、もしよろしければ今度ぜひ木野さんと対談いかがでしょう?
ええ、今度ぜひ!
斎藤:お舅さん、おいくつくらい?
内田:60半ばくらいです。
僕と同じだ。戦後で小学校入学するかでしょ。まだ男が男をやっていた時代の影響が強いんですよ。下の世代になるとキャパシティが上がるんだけど。今はそのときそのときで臨機応変にやって、選択肢が多いほうがいいとされているからね。あなたの夫だってあなたが稼げなくなったら変身するかもしれないよ。
私の前の夫もその前の夫も状況によって変わったりして、それはそれで大変でした。どうしても「オレが稼いでいるって」いうところから降りてこない人と、女が稼いでるけど「それはオレが操っているから」っていう風にもっていこうとする人と。私のお金も勝手に使ってた。仕事させてくれるていうだけで嬉しかったけど。お金は誰にとっても魅力的だからなあ。
あのね、内田さんのお舅さんは治らないですよ。人に頼られてないと自分っていうものが成立しないんだから。
私と話するときに、私のほう見ないんですよ。見たら負けって思ってる。
お舅さん、本当に追い込まれているんだね。
追い込まれているんだと思います。私がこうやって話すと文春文庫の局長さんとかも「お義父さんもいっぱいいっぱいなんですね」って言うんですよ。
ははははは!
私、何も大きな議論してるわけじゃないんですよ? 甥っ子のしつけでお父さんは叩けって言うんですけど、私はそれが嫌でこの間その子が悪戯したときに口で注意したんですよ。そしたらその子、最後はちゃんと「ごめんなさい」って謝ったんです。だから「お義父さん、叩かなくてもちゃんと教えられますよ」って言ったら「あ! そーお! ふん!」って私のほう見ないんですよ(笑)。ヘンなのって。その局長さんも「それは負けるのが怖いんですよ、見たら負けって思ってるんですよ」って。
男ってね、頼られてないと免疫力が下がるんですよ。ガンにもなりやすくなる。
じゃあ私はお義父さんを死に追い込んでる?
いや、お舅さんはあなたと張り合おうとしてるところがまだ元気ですよ(笑)。
お義父さんは「オレがえらい」って物語に何度も何度も書き換えようとするんですよ...。
それは偉いよ、その執念が。負けてない。おめでたい話ですよ、一言で言えば。
ところが私そのせいで、ここんとこ妊娠にしくいんですよ。そのせいでって私は思ってるんです。
アグレッシブになると妊娠しにくくなるね。攻撃性が出てきちゃうとね。
......!! やっぱりそうなんだ...。私もっと安らかな気持ちで暮らしたいんですよ! できるならもう1人産みたいと思ってる。でもお父さんのこと考えると夜中に心臓がバクバクしたり、銀行にいても冷や汗が出たり...。
簡単に言えば、いい人の振りやめればいいんですよ。
いやもうとっくにやめてますよ!? 散々描いてますから! 夫が気にしてるのはわかってますけど、私は「あんな図々しいハゲおやじがついてくるってわかってたら、私あなたとは結婚しなかったわ」ってことまで秋に出る単行本に描いてるんですよ。
はははは! それで打ち止めだな(笑)。
私もそのつもりで描いたんですよ、84ページ。限界だなって。それなのに「夏祭りこないか」って連絡きたり、つまらない旅行のお土産いっぱい送ってきたりするんですよ...。
それはキャパシティが大きいか、ボケてるかどっちかだな(笑)。
会話が成り立たないことは昔から確かなんですね。だから娘にセクハラやめてって頼んでも「オレは分け隔てしないからね!」って。「妊娠中に『どうだ腹は! どうだ腹は!』って言われるのイヤでした」って言うと、「オレはズバズバ言うからね!」って。全部いい話にかえちゃって、話するの嫌になっちゃう...。
彼なりの親密性の示し方なんだけど、それはまったく勘違いだね。
そうなんですよ。言っても聞こえてないんだなって消耗してきました。
聞こえてないっていうか、それで行動を修正すると自分が全部駄目になっちゃうんですよ。「修正したら負け」という意識があるから。
じゃあ細かい修正はできないってことですか?
出来ない。私はこれでやるんだから、こらえろって。
そうなのか...。お義父さんは「自分は次男坊で早々に家を追い出されて、自力で文房具店を有限会社にまでした」っていうのが自慢なんですよ。家のローンも完済してる、お墓も買ってる。それはすごくえらいと思うんですよ。私なんて借金まみれだから。でも世界一えらいわけじゃないのに。
小さい世界でパワーを保持するって、男は無限にやってるんですよ。オス犬の小便みたいに。
どこでもそうらしいですね、商店街のオヤジは...。
やだねー、男って。こうやって話聞くと困ったもんだなって(笑)。
夫には「お父さんのプライド傷ついてるんじゃないの?」って何度も聞いてるのに、夫は「そうなの?」って。
それは、そんな話聞いたらやってられないから聞かない。女性の聞き逃しと、男の無視・否認の仕方ってちょっと違うんだよね。男は「聞かなかったことにする」って自分で決めちゃう。女性は「何月何日こうだったじゃない!」って事実で責める。まあ自分でもむちゃくちゃ言ってるってことは、お舅さんもわかってるんだよ。
あ、わかってるんだ。
可哀想っちゃ可哀想、聞いてると(笑)。
あ、それはみんなそう言うんですよ、大人の担当さんは。私の生い立ちも関係あるんですけど、子供が大きい家を建てたら、どうして喜ぶって方向に行かないのかな...。「そっちには絶対行かないの? そんなにもオレの支配下じゃないとだめなの?」って、私はそれを知りたいんですよ。それで自分の親とも駄目になったから。
うーん。それはお舅さんにとってはキャパシティを一段階拡張することでしょう。それってすごい大変なことでね。不可能とは思わないけど、人間観が変わるのって、それこそ死に直面したり、足1本なくしたりしないとね。
斎藤:そういう話聞くと、自分もそういうようなことしちゃいけないなと思うね。私はたまたま男の子がいないから、力のある嫁とぶつかるなんて経験ないけど。
内田:「力のある嫁」って言わないでください~(笑)! 別に力があるとか思ってないんです~! 「子供が一番気持ちいいかたちを」って考えてたらこうなったわけで。
どうしてそんなに力ってイヤがるの? いいじゃない。
それはあまりに夫のお父さんがそれを意識するからですよ。
あなたは力のある女性なの。
ちゃんとそういう風に思ったほうがいいんでしょうか?
そうですよ。エンパワーメントってのは大事ですよ。
私、誰とも仲良くしたいんですよ。勝った負けたとかイヤなんです。
勝ち負けにしないっていうのは、それこそ力の究極の段階。そういう水平関係が維持できてるっていうのは能力ですよ。たいがいの人は縦関係のほうが楽だから。水平関係はむしろ難しい。夫婦関係なんてそうでしょ。横の関係のはずなのに、いつの間にか縦になっちゃってたりして。「力のある女性」なんていうと力コブのある女性のようなイメージがわくらしくて女性はイヤがるんだけどね。
イヤですよ。
ははははは(笑)。内田さんは人と関係する能力があるっていうことだよ、それも力。こういう作品描く時だって、絵がうまい人だったらいくらだっているけど、結局読者の視点に共感できなきゃ面白いもの描けないもの。読者と横関係ってことですよ。
お義父さんは縦関係の人です。
「でも私は横関係でいくの」って思っていれば、どこかでズレが起こっても衝突はしない。どちらかが上とかって関係になると敵対しちゃうけど。大丈夫ですよ、あなたは横でいける人だから。
横関係のほうが子供を参加させるのが楽です。
そう、それもあるね。
人をみるときに腕時計だの車だの見る人いますよね。例えば、こういうお店(対談場所の和食店)のご飯って美味しいけど、塩むすびだって美味しい。そういう喜びって貧乏でもあるじゃないですか。私が育った家は無茶苦茶な親だったけど、でもそういう喜びはあったと思うんですよ。だからお金のあるなしとか、上下って...。
そういうところに喜びを見つけだせる能力っていうのも、関係する能力と関係あると思うんですよ。ものはいらないですよね、関係さえあれば。でもあまりにも純粋にやると、ローマ・カトリックから列聖されちゃったりするけど(笑)。マリア・テレサになっちゃうから、そっちに行きすぎないように。
そっちはそっちでヤバイ領域があるんだ、気をつけよう(笑)。今日は長くなっちゃってすみません!
いえ、こちらこそ大変楽しい時間をありがとう。
(2005年6月収録)