
今も昔も組織の中で生きる時、名利、打算、保身に走り、なすべき時、なすべきことを見誤る人は少なくない。人としてなすべきことをなすべき時に過たず、迷いなく成し遂げる主人公秋谷、その子郁太郎、郁太郎の友百姓の子源吉の凛とした気韻が胸を打つ。秋谷の家譜編纂手伝いを名目に監視役 に送られ幽閉先の村で生活を共にするようになった庄三郎は、三年後に切腹を命じられている運命を淡々と受け入れ、一日一日を大切に生きる秋谷の人柄に感じ、いつしか彼が切腹に追い込まれた事件の真相を明らかにしようとする。それにも人としてのまことを感じる。権力悪の前にひるむことなく立 つ、清々しくも美しい人々の姿を描いて感動的であった。
(50代 女性)
背筋を伸ばしながら一気に読んだ。武士とは何か?真の主従関係とは何か?ひいては人間の生き方を考えさせられる小説であった。理想の武士像を「戸田 秋谷」に、農民の理想を「源吉」に求めながら なぜ10年後の切腹するかを解き明かす手法であった。また、秋谷とお由の方の双方の思いを「若かったころの自分をいとおしむ思い」という言葉で表現したのは、亡き藤沢周平の「蝉しぐれ」を連想させるようなうまい表現であった。武士とは 男とは かくも奥深く味わい深いもののだと感じた。
(60代 男性)
人には、夫々の価値観、正義の程がある。その所為で、時に想外の出来事に遭遇し、翻弄され、身動きの取れない境遇に身を置くことがある。
己が正義を貫くのか。その境遇を受け入れるのか。はたまた、儚く淡い希望を見出すのか。様々である。秋谷の如く、命をも諾とし武士(もののふ)の道を貫く様はなんと爽やかなことか。
(60代 男性)
心の中に騒ぐものが蜩の声なのだろうか?
凛とした戸田秋谷の余りにも見事な佇まいには、喧噪の様はありません。無実の罪をも、飲み込む魂の叫びが蜩なのだろうか?ただただ、感動します。
戸田秋谷の郡奉行時代の真摯な行動が深く村人の親愛をうけ、だからこそ理を尽くした説法が一揆の停止に導いたと思われます。そういう結果が予測さ れるので、鎖分銅で圧力をかけたのでしょう。最後の家老との対決は、お約束場面ではあるのですが、胸がすきっとします。また、切腹を目前にした松 吟尼との邂逅は胸にせまるものがあります。ふと、藤沢周平「蝉しぐれ」を思いだしました。これまで、葉室麟のすべての作品を読み、山本周五郎・藤沢周平の衣鉢を継承する作家と確信します。今後の作品を鶴首します。
庄三郎と郁太郎の後日譚を切望します。家老との対決、居合と石礫が炸裂すののが楽しみです。その時、信吾は敵か味方かなど今から胸がおどります。
(60代 男性)
江戸中期、将軍家治、田沼意次の時代。重商主義が開花する中、農村では、天明大飢饉など不安定な社会情勢の下で、三浦藩士戸田秋谷の凛としたな生き様を描く。
10年後の藩史編纂完成後切腹という不条理な藩命を受けつつも、家族に見守られ、村民の敬意を集めつつ勤しむ秋谷。監視役として派遣された檀野庄三郎だったが、次第に息子郁太郎、娘薫など家族、僧慶仙などとともに秋谷を愛しみ支援を続ける時の推移を鮮烈に描く。武士の宿命、生への葛藤などを描き人間の生とは何かをも考えさせる力作。
(70代 男性)
元勘定奉行・戸田秋谷の全編を通じた武士・人間としての矜持に満ちた死生観。農民の子ながら達観した生き様に夭逝した源吉。本書は、生きるとは家族・友としての絆を読者に問いつつ、人生の道標にして重厚な一冊。
(50代 男性)