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「写楽」問題は終わっていない
著者名:田中英道

2012-01-05 可知 康彦さん 神奈川県
以前より「写楽」には関心があり、コルフ島で発見されたという扇面画も早速見物に行ったり、謎に迫る各氏の論評を何篇か読んだりはしていた。しかしながら、今回この本を手にして、私のそれは市井の野次馬的な興味の域を全く出ていなかったことを痛感させられた。比較写真も多く判りやすいだけでなく、日本人としては珍しく直裁な表現で、美術史学会批判を展開しているのが特徴である。ただし、「研究上では実証主義と称して、芸術を見、判断する推察を拒んでいる」と断定されているのは疑問です。研究者であれば、事実を精査して仮説を立て、それをさらに立証するべく事実を探求してゆくものであろう。現物(当然、写楽および関連する絵画を含む)を見ないでの作業は、とても研究活動とはいえず、「手抜き」「怠慢」でしかないだろう。なお、浅野秀剛氏は、「写楽肉筆画の真贋鑑定」において、他の扇面画との花押の共通性と違いを特筆すべき点としているが、本書ではそれらに対する反論を試みていなかったのは残念である。今後の活発な議論が、「写楽」の事実を明らかにし、その魅力をさらに世界に広めるきっかけになることを期待しております。

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