ブックタイトル謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

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概要

謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

13 第一章 親子の物語としての源氏物語る「科学」であった。現に、桐壺の更衣は、源氏が三つになった年の夏にあっけなく死んでしまう。そういうことが、はっきりとはどこにも書いてないけれど、弘徽殿がたの呪詛によるものだろうという想念は、そこはかとなく読者の胸裏に去来したことであろう。だからこそ、鍾しよう愛あいする二の君の無事安全と、内裏の平安を望んで、帝は、あえて光る君に臣籍を与えて皇位の継承争いから外すという方策をとったのである。ところが、それでもなお弘徽殿の猜さい疑ぎ 心は止まない。桐壺の更衣が非業の死を遂げて後、帝は、あたかも楊よう貴き妃ひを喪うしなった玄げん宗そう皇帝のごとくにも、悲嘆に暮れて過ごしていたが、その時、弘徽殿は、どうしていたのであろう。風の音おと、虫の音ねにつけて、もののみ悲しうおぼさるるに、弘徽殿には、久しく上うへの御局つぼねにもまう上のぼりたまはず、月のおもしろきに、夜よふくるまで遊びをぞしたまふなる。いとすさまじう、ものしときこしめす。このごろの御けしきを見たてまつる上うへ人びと、女房などは、かたはらいたしと聞きけり。いとおし立ちかどかどしきところものしたまふ御方かたにて、ことにもあらずおぼし消ちてもてなしたまふなるべし。