ブックタイトル謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

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概要

謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

14かにかくに、秋風の音、虫の音ね、なににつけても帝はただただ悲しく思われているというのに、さて例の弘徽殿女御のほうでは、いっこうに帝のご寝所に参上することもなく、折しも月の美しい夜、深夜に及ぶまで平然と管弦を奏でて遊んでいる。その物音が聞こえてくるにつけても、帝は、まったく興ざめな、そして気に障さわることだとお聞きになっている。このごろの帝のご苦悩をお側そばで見聞きしている殿てん上じよう人びとや女房なども、その弘徽殿から聞こえる管弦の音を、聞くに堪えぬという思いで聞いている。弘徽殿女御という人は、気が強く険けんのある人柄であったから、おそらくは、たかが更衣ふぜいの死んだ程度のことなど物の数ではないというように黙殺して、こんな仕打ちをするのであろう。この弘徽殿の性格に言及したところ、「いとおし立ちかどかどしきところものしたまふ御方にて……」と書かれているから、つんつんと傲慢で情知らずなところのあった人として造形されていることは動かない。しかし、源氏という圧倒的なスーパースターが、自分の分身である皇子や実家の右大臣家の存立を脅かす存在として出現してきたとき、もしこれが、ごくごく穏やかで