ブックタイトル謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

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概要

謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

23 第一章 親子の物語としての源氏物語堪へぬは老おいの涙なりけりいともゆゆしや」とて、おしのごひ隠す。しかも、秋のことであった。なにもかもがしめやかな情じよう調ちように塗ぬりこめられたなかで、とうとう出発の日がやってきた。もうじき夜が明けるというその日の暁あかつきの闇やみのなかで、明石の御方は、眠りもやらず海のほうをぼんやりと見ている。寂さびしさを募らせる秋風が涼しく吹いて、虫もせわしなく鳴き立てている。父入道は、いつも払ふつ暁ぎようのころに後ご夜やの勤ごん行ぎように起き出すのだが、きょうはそれよりも早く起きてきて、暗い闇のなかで、鼻を啜すすり上げながら、涙声で読ど経きようをしている。晴れの出しゆつ立たつの日ゆえ、「別れる」やら「悲しい」やらの忌いまわしいことばは使わぬように、また涙も不吉ゆえ流さぬようにと、皆心がけてはいるのだが、ついつい、堪こらえることができぬ。姫君は、愁しゆう嘆たんする大人たちの心も知らぬげに、それはそれはかわいらしい様子で、かの唐もろ土こしの人がなによりも大事にするという夜や光こうの玉のように大切に思われ