ブックタイトル謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

ページ
26/36

このページは 謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点 の電子ブックに掲載されている26ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

24る。〈おお、おお、この姫は、こうして爺じじの袖から放はなしたことがないほど、いつもわしに馴なれて、まつわり付いている……この心こころ根ねのけなげなこと。……それにくらべてこの爺は、縁えん起ぎでもないような坊主の姿になって、こんなときにはおのれのこの忌まわしい姿がなさけない。それでも、これから先、この姫を片時だって見ずに過ごすことなど、いったいぜんたいできるものだろうか……〉と、そう思うと、入道は不吉なことと分かっていながら、滂ぼう沱だの涙を禁じ得ない。「行くさきをはるかに祈る別れ路ぢ に堪たへぬは老おいの涙なりけりこれより先、はるかな旅路の安全と、遠い都での将来の幸福をと、一心に祈っているこの別れの時に、それでも堪こらえることができぬものは、老い先短い年よりの涙でござるよなあええい、涙など不吉じゃ」そう言って、入道は、顔をごしごしと押し拭ぬぐって必死に涙を隠そうとする。こうして夜明け前の漆黒の闇のなかで、そこだけ光がさしているような「運命の姫君」明石の姫君を見つめながら、入道は涙にくれるのであった。そうして、既往の思うに任せなかったこと、娘に将来の希望を託して明石に下向し