ブックタイトル謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

ページ
28/36

このページは 謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点 の電子ブックに掲載されている28ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

26ば天人もやがて命尽きるときには、地じ獄ごく、餓が鬼き、畜ちく生しようの三さん悪あく道どうに堕おちるとか。……されば、この別れの辛つらさも、その天人の苦悩に思いなぞらえて、今日のただ今、きっぱりと永ながのお別れを申すことにしよう。……よいか、わしが死んだと聞いたとて、葬式やら法事やらのことなど、なにも考えんでよいぞ。……古歌に『世の中にさらぬ別れのなくもがな千ち代よもと嘆く人の子のため(世の中に、どうしたって避けることのできない別れ、死というものがなかったらいいのに。永遠に生きていてほしいと嘆く子どもらのために)』と歌うてある……が、そんなことにお心を動かしなさいますなよ」入道はこう言い放ってはみるものの、また、「この爺はな、死んで煙になるその間ま際ぎわまで、姫君のおん行く末をな、毎日六度の勤行ごとに……祈っておるからの。未練、といえば未練かもしれぬ、それでもな……」そこまで言うと、入道は、顔をクシャクシャにして泣きべそをかいた。今、私自身が、娘や女の孫を持つ身になってみると、この明石の入道の悲嘆は、痛いほどわかる。まして、掌しよう中ちゆうの玉のようにして愛育した娘と、その娘の産んだかわいい盛りの孫娘ばかりか、長年連れ添った妻までも都に送ってしまって、自分一人がこ