ブックタイトル謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

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謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

28うち返しのたまひ明かす。「何か、かくくちをしき身のほどならずだにもてなしたまはば」と聞こゆるものから、念じあへずうち泣くけはひ、あはれなり。姫君は、何心もなく、御車に乗らむことを急ぎたまふ。寄せたる所に、母君みづから抱いだきて出でたまへり。片言の、声はいとうつくしうて、袖をとらへて、「乗りたまへ」と引くも、いみじうおぼえて、末遠き二葉の松に引き別れいつか木高きかげを見るべきえも言ひやらず、いみじう泣けば……。この雪が少し溶けたころになって、源氏は大井の邸へ通って来た。いつもだったら、源氏の訪れを心待ちにしている明石の御方であったが、こたびばかりは、すこしも嬉うれしくない。源氏の訪れはすなわち姫君を迎えに来るのだと思い定めているからである。いよいよ、その日が来た、と思うと、胸の潰つぶれる思いがする。