ブックタイトル謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

ページ
32/36

このページは 謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点 の電子ブックに掲載されている32ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

謹訳 源氏物語 私抄――味わいつくす十三の視点

30ては「心の闇に惑う」というものだろうな〉と、そんなふうに同情すると、源氏としても胸が痛む。そこで、大丈夫、二条の邸に迎え取っても、かならずかならず辛いことのないように、くれぐれも愛情深く育てるから、と繰り返し言い聞かせなどするのであった。「わたくしは決して多くを望むのではございません。ただ、あの姫がわたくしのような取るに足りない身のほどでないようにだけしてくださいましたら、それで十分でございます」明石の御方は、そんなふうに言いはするものの、やはり堪こらえきれずに嗚咽を洩もらして泣くありさまは、あまりにも哀れであった。姫君は、しかし、なんの苦悩もない様子で、迎えの車に早く乗りたいと言う。車が寄せられる。母君みずから、姫を抱いて車寄せまで出て来る。ちょうど片言をしゃべるようになった姫の、その声はたいそうかわいらしい。車に乗ると、姫は母君の袖そでを?つかんで、「ねえ、乗って、いっしょに」と、その袖を引く。母君は、この声を聞くと、もはや涙もせきあえず、末すゑ遠とほき二ふた葉ば の松に引き別れ