書評 投稿ページ
投稿閲覧
ジャンル・タイトル・著者名
新書
日本人のための戦略的思考入門
著者名:孫崎 亨

2011-03-07 針貝 武紀さん 福岡県
戦後一時期は、まだ独立の気概をお持ちの外交官や政治家もおられたのに、今や米国追随思考派が指導者層を形成するに至っています。問題は、その方々のご主張が戦略的分析を行ったうえでの論理的帰結からではないように見受けられることです。仮にそうではなくても、心の奥底から一点のやましさもなく、彼らはそれ(アメリカとの一体性確保)が正しいと思っておられるのであればいいのですが、私は疑問を感じています。(孫崎君がいうのが正しいのだけれども、アメリカ様にはたてつけないよ、といった思考が潜んではいないか、と思ってしまうのです。そういった信念を、アメリカの視線を背後に感じながらテレビの前で国民に説いているのではないか……と)
テレビ出演される政治家評論家のお話には、理屈抜きに「これしかない」といった断定的な表現とか奥歯にものがはさまった表現が多く、言葉どおり信じられない場合があるのですが、孫崎さんの本は、極めて懇切丁寧にすべての根拠を明らかにされていますし、他からの圧力などのバイアスがかかっておらずわが国のためをのみ思っての記述と感じますので、教科書のように、今、多くの人々がお読みになって、これを基礎とした勉強や議論を行って、国全体の、このことについてのレベルアップを図るべきだと思いました。

次が、一番大きな感想です。
恐ろしいことですが、真の独立を果たしていなければ、魂もいずれは枯渇するのだな、と感じています(清時代の韓国が在外公館などで、外交上の政策的発言をする場合は、いちいち中国の了解を得ていたことから、韓国は中国に対して属国化してしまっている、といって私はせせら笑っていたのですが、この10数年間のわが国においてそうなのだ、と改めて感じ、笑った自分が恥ずかしくなりました)わが国の骨抜き作戦が現実のものとなってきたと感じております。米の戦後政策はいよいよ完成の域に入ってきたのですね。

魂が枯渇する(独立しているという自覚を失う)と、戦略的思考自体を無意識のうちに放棄してしまうのではないでしょうか。安易に、アメリカの言うことを実施すればいいという思考パターンに陥ること自体が、自らの弱体化を物語っています。日露戦争の後、来日したタゴールの指摘(物質的力を得るからと言って無批判に欧州化することは魂を弱めていく)どおりだと思いました。
魂の枯渇は、指導層から次第に下に染みるように国民から魂を抜き去って、(幕末の草奔の臣に見られた)国を守る、国を興す、といった気概を失っていくような気がしています(「生きる屍」とは、魂が去勢された状態をいうのではないでしょうか)。苦しくとも独立しなければ、究極的には国全体がだめになるように思いました。(小泉政権の時にも、わが国は、アメリカの59(8?)番目の州になろうとしているのか、といった錯覚を覚えたほどです。今も、英語でしか授業をしない特区の構想などもそう!)

このほか、特に学んだ2つ目は、日米安全保障が、虚構の同盟(彼らの言葉)であることを確認できたことです。米が日本のための防衛作業を敢行するかどうかの決定権は米議会にあるのですから、結局は、それが国益になるかどうか、米の国民が判定することになります。あくまで国益中心です。防衛の義務を負うわけではなく、あくまで彼らの国益を考慮して行動する権利を担保している、まことに巧妙な仕組みです。(もっとも、有事の際、何もしてくれなければ、次は、アメリカ出ていけ、となるのでしょうから、動かない選択も難しいでしょうけれども)。日本は彼らにとって、”保護国”なんて驚きでした。
特に学んだ、3つ目は、米の極東における最重要なパートナーは日本から中国に代わる(仲良しの意味ではなく、構える相手としてはならないという意味で)ことと、これからの日本は極東に限らず彼らの戦略に沿って世界的範囲で使わることはあっても、軽く扱われるだろうということでした。

主権の尊重、武力の抑制を唱える国連が世界全体の意思を代表するようにならなければならず、究極的には国連が指導する世界になってほしいと願います。(戦勝国の常任理事国の意思だけが貫徹するようではだめでしょうが……)
独立を遂げても対話・協調路線を徹底して追求すべきことは論を待ちません。それでも独立への努力には、今回の鳩山総理の普天間問題のように、困難も妨害も多々あるでしょうし、苦しいことが多いと思います。けれども魂が死ぬくらいなら、苦しくても独立を果たすべきです。一時しのぎではなく長期的に日本の繁栄を願うのであれば、独立を放棄して他国に依存する(これが一時は安楽にみえても結局は死に導く)ことだけはやめるべきと思いました。

なお、孫崎様には、15年ほど以前、ウズべキスタン大使をされていた時、当地を訪れて「外交の現場から」をいただいたことがあり、不十分な知識の政治家が行う(思いつきの)外交の危険さを教えていただきました。当時から大変身近に感じており、また感謝申し上げております。

最近の中国関係、ロシアの北方領土関係の動き、などなどこの際、孫崎氏のご主張を機に、大いに公開討論をお願いしたいと思います。

戻る