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新書
上杉茂憲
著者名:童門冬二

2011-11-23 小野 章さん 埼玉県
 伝記でも、評伝でも、紀行文でも、単なる小説、詩でもない。首都行政の要職を経験した作家の歴史的Nonfictionである。縦糸として、宮古島の白砂を手に採り、常世の島、至福の一瞬、悠久の時間、老人福祉の島を観想し、上手に齢を重ねた意志を活写。横糸として、沖縄返還の日の風土、気候、気象を伏線に、(ハイビスカスが泣いている)と描写し、沖縄の実情を詩的に表現。沖縄本島巡回日誌を紐解き、県令上杉茂憲(第十三代将軍は誤り、第十四代将軍・家茂の一字賜名)を、幕藩体制から明治太政官制への移行期の「時代の子」として、大Spectacleで、縦横無尽に表現する。「当時の沖縄県民の苦しい生活の実態に、いま一歩踏み込めていない」と、自戒を籠めて表記されているが、「小説 上杉鷹山」の末裔である茂憲を、鷹山公の精神に則り、圧政と苛斂誅求を、村、間切の視察によって、村吏との問答、間切の巨大な借金、砂糖生産による宿債返済、上申書を通して、住民の機微な内実を、真骨頂である小説で虫瞰している。彼の県令としての実績ははっきりいって失敗だ。と、元行政官としての俯瞰で論断する。しかし、上杉県令が特に力を入れた「全島に亘る教育の充実振興」策は実っていく。この教育普及によって、多くの知識人が育ったのだ。そしてこのことが、「沖縄県民の主体性を生かした自治」を求める活動に発展していく。と、歴史的Nonfiction作家としての、面目躍如たる鳥瞰で茂憲を顕彰する。











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