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ガリマール新評伝シリーズ 三島由紀夫
著者名:ジェニフェール・ルシュール/鈴木雅生

2013-02-18 粕谷 貴美子さん 神奈川県
「セップク、ハラキリ、カミカゼ」、これらの単語はそのまま日本語と同じ意味で、フランス語の中で使われている。それだけ、日本特有の、日本史および文化を象徴する語彙である。
フランス人著者による三島伝記、「三島由紀夫」は、伝記を越えた、一つの長編小説のような読書感を覚える。単に主人公の人生をたどるのではない。終始一貫して、「美と死」というテーマが底に波打ち、その行く先に興味が絶えることはない。
西欧社会は、啓蒙思想時代から常に他者からの自我の解放と自我の追求を目指してきた。一方日本社会は、敗戦まで、将軍と武士、天皇と国民、師匠と弟子といった上下主従関係の確立、維持を基本としてきた。尊重さえされるこの精神は西欧では見られない。だからこそ、三島の複雑な回顧主義的天皇復権への執着心が、外国人の目から通していっそう鮮やかに、読者の目に映るのである。


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