書評 投稿ページ
投稿閲覧
ジャンル・タイトル・著者名
小説(文庫を除く)
夏雷
著者名:大倉崇裕

2015-08-05 salzachさん 東京都
槍ヶ岳への登場人物達の思いを軸に物語は進む。主人公倉持は20年前、油断から後輩を不自由な身にした呵責から山との縁を切ったが、再び山へと誘う山田という人物が現れる。山田はそれまで山とは縁のないサラリーマンであったが、娘が失踪し、妻を亡くして家庭を壊す。人間の欲望にまみれた都会の中では常にこのような罠に陥る危険があろう。全財産を投げ打ってでも娘の亡骸を見つけることを生きる糧とし、ひたすら山行の準備をする姿に理由を知らない倉持の心を動かす。「目標を達したら本当の山登りをしよう。」と誓うシーンがある。そこには打ちひしがれた男の間に友情を生み出す偉大な山の力があった。実直で不器用な倉持が山田の無念をはらすべく立ち上がり、便利屋から変身していく展開に時間が経つのも忘れた。静香の不自然な行動には最後まで違和感が残ったが、親の高齢化と介護、人間の欲、不変な山の力、ストレートな読み応えのある物語だと感じた。

戻る