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文芸書(文庫を除く)
羊は安らかに草を食み
著者名:宇佐美 まこと

2021-02-23 kankikohさん 奈良県
日本の近代史を語る上で先の大戦は避けて通ることができないわけでその体験を語り継がねばならないとはよく言われる。語れる世代は高齢となり、冥界へと旅立つ人も多くなる中で次の世代にどのように伝えるのか、そのひとつの試みとして文学的体験といったようなものをこの作品は提示しているのではないか。参考文献として示された逃避行の記録を下敷きとしながらそれをくぐり抜けて肉親以上のつながりを築いた二人の女性の後世が描かれる中で、生命の維持だけを考えて生きるしかなかったその時代と対比し、現代日本の拝金主義とも言える病理が暴き出されて行くように感じた。血盟を交わしたものの二度と会うことはないとの秘密を共にし、別れて別々に人生を歩んだ老境の二人を支えるこれまた二人のやや年若な老女たち。「後は死ぬだけじゃないの」と最後の勝負に挑む。社会正義のためにこそ人は行動するのであると迫ってくるものを感じた。

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