

源氏物語は世界的に見ても一つの「奇跡」である。題して「謹訳源氏物語」としたのは、原典の持つ深く豊かな文学世界を、忠実謹直なる態度で解釈し味わい尽くして、作者の「言いたかったこと」を、その行間までも掬い取りたいという思いを込めたのである。それは、私の古典学者としての責任である。その上で、面白くどんどん読めてしまう自然な現代語で表現するのは、作家としての責任である。
林 望(はやし・のぞむ)
1949年東京生まれ。作家・国文学者。慶應義塾大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学客員教授、東京藝術大学助教授等を歴任。専門は日本書誌学、国文学。 『イギリスはおいしい』(文春文庫)で日本エッセイスト・クラブ賞、『ケンブリッジ大学所蔵和漢古書総合目録』(ケンブリッジ大学出版)で国際交流奨励賞、『林望のイギリス観察辞典』(平凡社)で講談社エッセイ賞を受賞。近著に『節約の王道』(日本経済新聞出版社)、『リンボウ先生のうふふ枕草子』(祥伝社)がある。『恋の歌、恋の物語』(岩波ジュニア新書)『夕顔の恋』(朝日出版社)等、『源氏物語』に関する著作、講演も多数。エッセイ、小説のほか、歌曲の詩作、能評論等も多数手がける。