• 『愚者の毒』を超える、
  • 魂の戦慄!

『羊は安らかに草を食み』宇佐美まこと

  • 認知症を患い、日ごと記憶が失われゆく老女には、
  • それでも消せない秘密の絆があった。
  • 八十六年の人生を遡る最後の旅が、
  • 図らずも浮かび上がらせる壮絶な真実――。
人間の尊厳をみつめた至高のミステリー!

あらすじ

過去の断片が、まあさんを苦しめている。
それまで理性で抑えつけていたものが溢れ出してきているのだ。
彼女の心の()()()を取り除いてあげたい──

東京で知り合った三人の老女、
都築益恵(86歳)、持田アイ(80歳)、須田富士子(77歳)。

二十年来の仲良し三人組だったが、益恵が認知症になり、意思疎通が難しくなっていた。
ある日、アイと富士子は、益恵を最後の旅に連れ出す。
彼女がかつて住んだ土地を辿る旅。それは彼女の人生を遡る旅でもあった。
湖を見はるかす大津、天守閣を望む城下町松山、そして絶海の五島列島へ。

太平洋戦争末期、銃弾飛び交う満州を歩き通し、命からがら祖国に辿り着いた益恵は、
いかにして敗戦後の苛酷を生き延び、今日の平穏を得たのか。
日ごと記憶を失っていく益恵が、生涯隠しつづけてきた秘密とは?

やがてアイと富士子にも、それぞれ人生の転機が訪れ……。

旅の果て、益恵がこれまで見せたことのない感情を露わにした時、
老女たちの運命は急転する──。

早くも全国の書店から感嘆の声、続々!

  • これはとんでもない密度の作品!
    認知症の中で過去の記憶を巡るという設定が凄いです。
    朧げになっていく自分のすべてを身ぐるみ剥がされるようで。
    終盤には荘厳なパイプオルガンの音色が聴こえてきました。
    とにかく圧倒的な物語世界にただ立ち尽くすのみ。
    命の炎が燃えたぎる、壮絶で壮大な人間ドラマ!

    ──ブックジャーナリスト 内田剛さん
  • 凄まじい人間力と揺るがぬ愛が描かれ、時を超えた絆に魂が震える。

    ──うさぎや矢板店 山田恵理子さん
  • 母を重ねて読みました。力強く崇高なドラマ。本当に素晴らしい作品!!

    ──精文館書店豊明店 近藤綾子さん
  • 奇蹟的に帰った二人の秘められた嘘と絆。
    生きることの本当の意味を問う、ミステリー傑作!!

    ──本の王国グループ 宮地友則さん
  • なんて強いんだろう。生きる力、生きようとする精神力に心が震えた。

    ──柳正堂書店甲府昭和イトーヨーカドー店
    山本机久美さん
  • 真実に辿りついた時、あまりの衝撃に涙が止まらなかった。
    まさに打ち震える深い読書体験。

    ──紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん
  • こんな素敵な友人に囲まれた総括の旅に温かい涙でいっぱいになった。

    ──ジュンク堂書店滋賀草津店 山中真理さん
  • これはすごい。おそれいった!!
    美しい友情の物語に、こんな秘密と結末が隠されていたなんて!

    ──精文館書店中島新町店 久田かおりさん

著者コメント

 死を目前にした人間は強い。そして自由だ。高齢の両親と接しているとつくづく思う。そして自分の人生の終わり方、始末のつけ方も考える。そういう経験が、この小説の出発点だった。
 
 八十歳前後の老婆三人が、そのうちの一人の人生を辿る旅をする物語である。彼女は認知症を患っているから、意見を聞くことはかなわない。付き添う二人が、親友である老婆の人生をひもといていくわけだ。そして彼女が体験した壮絶な戦争体験を知ることになる。
 
 昭和、平成、令和と三つの時代には、それぞれ悲劇的な出来事が起こった。昭和では戦争、平成では阪神淡路大震災や東日本大震災、そして令和ではコロナ禍である。震災や疫病は、人間の力ではどうしようもない災厄と言えるものだ。だが戦争だけは違う。戦争こそは、人類が犯した最も愚かな罪である。私たちが若い頃、「戦争を知らない子供たち」という歌が流行った。戦争体験者がまだ多かった時代だ。戦争の惨さ、悲しさ、平和の尊さを伝えるための戒めを私たちは繰り返し聞かされてきた。
 戦後七十五年が経ち、戦争体験者たちは急速に減りつつある。あの悲惨な出来事もどんどん遠くなる。かつて警告を発してくれていた人々から直接メッセージを受け取った世代として、私はやはり戦争のことを書いておきたいと思った。
 
 認知症になった老婆は、もう自分の体験を語れない。だがたくましくしなやかで、人生の楽しみ方を知っていた。彼女の魂を解放して、安らかに死に向かわせてやろうとする二人の老婆も、最後の力を振り絞って躍動する。本当にこの世代の底力は凄い。書いているうちに、亡くなった人々も含めて戦争体験者たちの「慌てるんじゃないよ。落ち着いて向き合えばコロナ禍もきっと乗り越えられる」という声を聞いた気がした。

Profile

宇佐美まこと(うさみまこと)

1957年、愛媛県生まれ。2006年「るんびにの子供」で第1回『幽』怪談文学賞短編部門大賞を受賞。2017年『愚者の毒』(祥伝社文庫)で第70回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門を受賞する。19年『展望塔のラプンツェル』で「本の雑誌ベスト10」第1位に選出され、第33回山本周五郎賞候補。他の著書に『入らずの森』『死はすぐそこの影の中』『黒鳥の湖』など。

『羊は安らかに草を食み』

宇佐美まこと

定価:本体1700円+税
ISBN:978-4-396-63603-6