扁桃体(アーモンド)が人より小さく、怒りや恐怖を感じることができない十六歳の高校生、ユンジェ。
そんな彼は、十五歳の誕生日に、目の前で祖母と母が通り魔に襲われたときも、ただ黙ってその光景を見つめているだけだった。
母は、感情がわからない息子に「喜」「怒」「哀」「楽」「愛」「悪」「欲」を丸暗記させることで、なんとか"普通の子"に見えるようにと訓練してきた。
だが、母は事件によって植物状態になり、ユンジェはひとりぼっちになってしまう。
そんなとき現れたのが、もう一人の"怪物"、ゴニだった。激しい感情を持つその少年との出会いは、ユンジェの人生を大きく変えていく──。
怪物と呼ばれた少年が
愛によって変わるまで。
国内外問わず、今年読んだ中でナンバー1作品。この物語は無垢な愛に溢れているから、きっと何十年経ったとしても色褪せることなく貴方の心の中で愛を育み続けてくれる。
(文教堂書店 青戸店 青柳将人さん)
こんなにも涙が流れる。読み終えてもずっと心に響いています。幅広い年代の人におすすめしたい≪海外からの贈り物》です!
(うさぎや 矢板店 山田恵理子さん)
心の救いとなる一冊。
様々な理由で、身動きがとれなくなっている人たちの勇気と希望を示す物語。
(萬松堂 中山英さん)
すごくすごく、よかったです! 本当になんて素晴らしい読書体験だったことか!
衝撃でした!
(TSUTAYA 中万々店 山中由貴さん)
現代社会のひずみを、希望へと導くのに必要な本。
子どもはもちろん、大人にこそ読んでほしい。
(ジュンク堂 滋賀草津店 山中真理さん)
読みだしたら、一気読み。
アジア、いや世界文学の名作です。ユンジェを普通に見えるように感情を暗記させる母親に、子を持つ親の精一杯の愛情を感じます。
(大垣書店 豊中緑丘店 井上哲也さん)
心に刺さることが多くて、たくさんの付箋を貼っていた。
ユンジェの変化を発見するたびに何度も心の中で友達とハイタッチしていた。
(ブックファースト ボーノ相模大野店 西美和さん)
この作品は世界共通の言語だ。読めば先入観や既成概念から解き放たれるはず。
価値観を一変させるパワーに溢れた一冊。
(三省堂 有楽町店 内田剛さん)
他者を思う気持ちについて深く考えさせられる物語。人間関係というのは「共感」の上に成り立っているものなんだと痛感せずにはいられませんでした。
(水嶋書房 くずはモール店 井上恵さん)
四年前の春、子どもが生まれた。面白いと思ったことはいくつかあったけれど、産むのに苦労したわけでもないし、特に感動もなく、ただ物珍しさとおぼつかなさでいっぱいだった。でも何日か経つと、ベッドの上でのそのそと動く赤ちゃんを見るたびに勝手に涙があふれるようになった。今でも、どうにも説明するのが難しい。どんな感情も当てはまらない涙だった。
赤ちゃんはあまりにも小さかった。低いベッドから床に落ちただけでも、何時間か一人にしておいただけでも、命が途切れてしまいそうだった。自分の力では何もできない生命体がこの世に投げ出されて、宙に向かってじたばたもがいていた。自分の子だという実感もあまりなく、いなくなって捜すことになったとしても、見つけ出す自信もなかった。自分に質問を投げかけてみた。この子がどんな姿であっても、変わりなく愛を与えることができるだろうか。期待とまったく違う姿に成長したとしても? その問いから、「果たして私だったら愛することができるだろうか?」と首をひねってしまうような子が二人生まれた。それがユンジェとゴニだ。
毎日毎日、子どもが生まれている。すべての可能性が開かれている、祝福されるべき子どもたちだ。でも彼らのうちの誰かは社会の落伍者となり、誰かは偉くなって人に命令する立場になったとしても心はねじ曲がった人になるかもしれない。あまり多くはないかもしれないけれど、与えられた条件を克服して、感動を与える人に成長することもある。
ちょっとありきたりな結論かもしれない。でも私は、人間を人間にするのも、怪物にするのも愛だと思うようになった。そんな話を書いてみたかった。
(「作者の言葉」より引用。一部中略)
1979年、ソウル生まれ。大学校で社会学と哲学を学び、韓国映画アカデミー映画科で映画演出を専攻。2001年、第6回『シネ21』映画評論賞を受賞し、2006年、「瞬間を信じます」で第3回科学技術創作文芸のシナリオシノプシス部門を受賞。「人間的に情の通じない人間」、「あなたの意味」など多数の短編映画の脚本、演出を手掛ける。2016年、初の長編小説『アーモンド』で第10回チャンビ青少年文学賞を受賞。2017年、長編小説『三十の反撃』で第5回済州4・3平和文学賞を受賞した。現在、映画監督、シナリオ作家、小説家として、幅広く活躍している。
その少年と目が合った。
その目はまっすぐ前を見つめていて、でも無表情で、その心の内が分からなかった。
この少年になぜか魅入られ、彼が何を思っているのか知りたくて吸い込まれるように手を伸ばした。
それが私と『アーモンド』との出会いだ。
読んでみると、主人公ユンジェはこのカバーのイラスト通りの少年だった。
感情を感じることはできないけれど、たっぷりと愛情を受けて育ち、まっすぐに前を見て、他人の気持ちを知り、寄り添おうとしながら生きているユンジェ。
そんなユンジェにふりかかる運命に、そして彼とはまったく違って、愛情を受けられずに育った不良少年ゴニとの出会いと友情の物語に、たちまち魅了されてしまった。そして訳し終わった今も、人を愛するとは、人に共感するとはどういうことか、ずっと考え続けている。
この物語は悲劇なのか喜劇なのか。冒頭の著者からの問いかけへの答えは、ぜひ結末まで読んで、お一人お一人に確かめていただきたい。でも間違いなく言えるのは、これは「希望」の物語だということ。
読者の皆さまと、このワクワクドキドキを共有できることを楽しみにしています。
翻訳者。学習院大学文学部卒。高麗大学校大学院国語国文学科修士課程で国語学を専攻。訳書に『世界の中のハングル』(洪宗善ほか著)、『目の眩んだ者たちの国家』(キム・エランほか著)、『韓国人のこころとくらし――「チンダルレの花」と「アリラン」』(イ・ギュテ著)がある。