梅津有希子のだし生活、はじめました。

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「うまいっ!」の一言からはじまった「だし生活」

自宅でつくってみた、ちょっと贅沢な和定食

ここ数年、ずっと「だしくらいとれないとなぁ……」と、心のどこかで思っていた。
別に、顆粒だしやパックのだしを使うことに罪悪感があるわけではない。
ただ、いい年をして、正しいだしのとり方を知らないというのもいかがなものだろうかと。知らないというか、覚えられない。
定期的にだしをとるわけではないので、だしをとる必要に迫られたときには、その都度ネットや料理本で手順を確認。その後またしばらくだしをとることがなく、やり方を忘れる。自炊するようになって20年余り、ひたすらこの繰り返しだった。

ある年の元日、母が作ってくれただしのきいた年越しそばに衝撃を受け、ツイッターでこうつぶやいている。

「今年の抱負は『おだしをとる』。たった今決まった。母が作るスープやおそばがいちいちうまい。超うまい。顆粒のだしの素なんて使わないって。でも、簡単で手抜きするのに一番いい方法だと。確かにそうかも。」

だしへの思いが日増しに募ってきたわたしは、真冬のとある晩ごはんに、だしのきいたみそ汁を作りたくなった。年越しそばとお正月のお雑煮以外でだしをとるなんて何年ぶりのことだろう。
キッチンの引き出しに入っていた、2年くらい前に賞味期限の切れた日高昆布1枚を水に入れて火にかけ、沸騰したらかつお節をひとつかみ、バサッと投入。
かつお節は、昆布と同様に引き出しに入っていた、袋に半分くらい残っていたもの。開封したてのフレッシュなものではない。
昆布は賞味期限が切れているけれど、まあ乾物なので気にしない。日のあたらない引き出しで保存していたし。と、O型の大ざっぱ力をいかんなく発揮。
少ししたら火を止めて、ボウルにキッチンペーパーをのせたザルを重ね、だしをこす。

あぁぁぁぁ、なんていい香り……。

顆粒だしだと、それなりの料理は作れても、このようになんともいえない香りが立ち上ることはない。
これぞ安らぎの香り。幸せの香り。心がホッとする香り。
リビングのソファに座っていた夫も、「わー、いい匂い!」とうれしそうに声を上げる。おぉ、だしをとるだけで人はこんなにも幸せな気持ちになれるのか……。

熱々のみそ汁を夫に出すと、すすった瞬間「うまいっ!」と一言。
「やっぱり顆粒だしと全然違うなぁ」といいながら、最後まで一滴残らず飲み干した。
この、「飲み干した」のがけっこう驚きで、普段夫は絶対にスープやみそ汁を最後にほんの少しだけ残す。底のほうに何かが沈殿しているように感じるのだそうで、「昔からずっとこうしている」とのこと。
そんな夫が、「不純物が入っていないのがわかるので、気がついたら全部飲んでた」と。

「余計なものが何も入っていない」というのは、こういうことか。

本物のおだしの力って、すごいのかもしれない。

梅津有希子

ライター/編集者。1976年、北海道出身。雑誌編集者を経て2005年に独立。現在、女性向けのwebや雑誌、書籍を中心に、食、ペット、暮らし、発信力などのテーマで執筆や講演を精力的に展開している。著書に、ドラマ化もされた『終電ごはん』(幻冬舎)をはじめ、『使い切りたい調味料ベスト10!』(幻冬舎)『吾輩は看板猫である』シリーズ(文藝春秋)『ミセス・シンデレラ 夢を叶える発信力の磨き方』(幻冬舎)などがある。

 

公式サイト:umetsuyukiko.com

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