text= 祥伝社文芸編集部
photo =近藤陽介
いつもそうなのですが、担当編集者のリクエストに答えた結果ですね。今回は専門的な職業のミステリーという要望でした。
取材をするよりも、その部分を「らしく」見せる想像力のほうが重要と考えていますので、取材はしていません。昔読んだ上野正彦さんの『死体は語る』や映画などで見た解剖シーンの記憶をもとに、肉付けしています。現状についてはニュースで見聞きしたものを参考にしています。
それも新聞で見た、あるニュースを参考に思いついて、テーマとの兼ね合いを考えながら、成立する方法を逆に考えていきました。
詳細な解剖の描写が作品の肝ですので、映像化は難しいと思っておりました。本格的な描写をするWOWOWさんがドラマ化してくださると聞いて納得しました。
小説を書くときに特定の方をイメージしているわけではないので、映像化になると、いつも意外性があって面白いですね。光崎教授は六十代後半の設定なのですが、演じられる柴田恭兵さんは若々しいイメージだったので、意表をつかれました。
解剖室は素晴らしかったです。といっても、私も実際のものを見たことはないのですが、大多数の方が想像していらっしゃるような青白い光に照らされ、冷たい感じのする空間になっていました。
「ヒポクラテスの誓い」が書かれた碑文を読み上げたり、その前で話したりする場面が何度も出てくるのでテーマがはっきり伝わってきてとてもよかったです。また原作における一話目をほぼ削って、他の部分を膨らませるかたちになっているのですが、ドラマではこのようにするほうが効果的で、小説との違いがあって面白かったですね。主人公の真琴が自らの意志で積極的に行動するさまも好ましかったです。
(2016年8月 祥伝社会議室にて)