社会人三年めの三上傑には、大学生の妹、若緒がいた。仲は特に良くも悪くもなく、普通。
しかし最近、傑は妹のことばかり気にかけている。
傑の友だちであり若緒の恋人でもある城山大河が、ドライブデート中に事故を起こしたのだ。後遺症で、若緒は左足を引きずるようになってしまった。
以来、家族ぐるみの付き合いだった大河を巡って、三上家はどこかぎくしゃくしている。
教員の父は大河に一定の理解を示すが、納得いかない母が突っかかり、喧嘩が絶えない。
ハンデを負いながら、若緒は就活に苦戦中。
家族に、友に、どう接すればいいのか。思い悩む傑は……。
『ひと』を読んだ時の感動そのままに、私の心に温かい何かが流れ込んできた。体全体に沁みわたる余韻。読んでいる時が、まさに至福の時なのだ。
ひとつの家族の端っこにいさせてもらっているような感覚で家族の行方を見守る気持ちでした。
小野寺さんが描くのは、
いつも誰かが誰かのことをちゃんと考えてくれている人達ばかりで心がとてもじんわりします。
人の心の機微を鮮やかに描き出す小野さんの筆が、
時間と共に優しく物語を進めて、新たな関係を構築していく。
人間って、きっと良いものなのだ。
関わる皆が優しく再生していき、読者の心に温かい感動が残される、
そんな素晴らしい物語。
小野寺史宜さんの描く人の気持ちはいつも私たちに寄り添う。
最後に爽やかで、温かい優しさで包んでくれる。
作品の中のみんなが好きだ。
『ひと』の田野倉のコロッケや
『まち』にでてきた人がこの作品で再び登場して、嬉しかったです。
主人公、妹、友人、父、母。それぞれの気持ちがわかるからこそ、苦しい。
それでも、淡々と語られる文章が読んでいてとても心地良い。
主人公の行動がとても丁寧で気持ちが良かった。
「ひと」から「まち」へ広がった物語が「いえ」へと戻ってきた。
筧ハイツもおかずの田野倉も江藤君も郡君も出てきてファンにはたまらない。
ひととひとの間には、「言葉」が必要だな、としみじみ思う。
年が明けてまもなく出会ったこの作品は、また新しい年が来ても、何度新しい年が来ても、読み継がれていく一冊になるであろう。