「風の市兵衛」シリーズとは

さすらいの渡り用人・唐木市兵衛にはいろいろな顔がある。武士でありながら、得意の算盤で武家商家の台所を預かって生きる飄々とした顔。己れのまわりの人々に理不尽な災いをもたらすものを、〈風の剣〉で成敗する鬼神の顔。心許せる友と大いに呑み語り合う少年のような顔……。そんな市兵衛の魅力が読者の心を摑んでいく。

本シリーズの魅力はそれだけではない。まずは波瀾万丈のストーリー。謎解き、剣戟、人情、恋物語。市兵衛が人々の営みに触れ彼らを助けようと奮闘する姿が、読者の心をハラハラドキドキさせてはなさない。さらに、圧巻の剣戟シーン。市兵衛は〈風の剣〉を使い、徹底した剣戟がシリーズを通して繰り広げられていく。一撃必殺の剣ではなく、相手を倒すまで何度も刃を交える、リアリズムを追求した剣である。剣が使えないときは肉弾戦もある。ここまで描く時代小説は滅多にないだろう。さらに、個性的な脇役たちも大活躍。クセやアクの強い面々が、市兵衛を助けたり励ましたりと忙しい。それぞれにファンがつくほどである。
いわば、魅力満載の目がはなせないシリーズなのである。