第90回 絵本『そらはあおくて』発売中!

杉浦さやかさんの新刊『そらはあおくて』があすなろ書房さんから出版されました。
シャーロット・ゾロトウが1963年にアメリカで刊行した絵本の日本初翻訳。
その挿絵を担当されたのです。
というわけで、毎度のことながら出版社の壁を越えて(私、祥伝社の社員です)
ご紹介します。
杉浦さんインタビューとイベントのお知らせ、2本立てです。長いです。

 

●杉浦さんインタビュー

Q1 原作者のシャーロット・ゾロトウは、日本でもたくさん翻訳されていますね。

A1 アメリカ本国では80冊にのぼる絵本を手がけているそう。日本で有名なのは『ねえさんといもうと』『にいさんといもうと』(この2冊は私も幼い頃に見た記憶あり)『はるになったら』『うさぎさんてつだってほしいの』あたりでしょうか。

 

Q2 原書の挿絵を担当されたガース・ウィリアムズも、「絵本界のレジェンド」だそうですね。

A2 誰もが知る『しろいうさぎとくろいうさぎ』『おやすみなさいフランシス』、『大草原の小さな家』シリーズの挿絵などを手がけたすんごい方です。

左から 生まれる前からうちにあった『しろいうさぎとくろいうさぎ』、
ゾロトウの『にいさんといもうと』、『そらはあおくて』の原書

 

Q3 その絵本の日本語版の挿絵を担当することになった経緯は? ひょっとすると、プレッシャーもありましたか。

A3 あすなろ書房ではゾロトウの『にいさんといもうと』を、おーなり由子さん訳、はたこうしろうさん画で『おにいちゃんといもうと』という新しい絵本に生まれ変わらせていて、私にもゾロトウの日本未発表作の挿絵を描かないか、というお話をくださいました。
すばらしいお話だったのですぐに飛びついたのですが、お話が好きすぎて絵が追いつけるかという不安、またゾロトウ&ガース・ウィリアムズという原書のコンビが偉大すぎて、
プレッシャーはものすごかったです。
編集さんが最初に打ち合わせで原書のカラーコピーをくれようとしたのを、「うわっ、完成するまで見ないでおきます!」と宣言したほど。見てしまったら、圧倒的な原書の力に影響を受けてしまいそうで、おそろしかった(完成してから、アメリカの古書店から取り寄せました)。
なかなかペン入れをはじめられなかったり、描きはじめてもタッチが定まらなかったり。
眠れない日が続き、体調を崩し……こんな風になったのは25年の仕事歴の中で、はじめてのことでした。
苦しかったけれど、いろんな時代の女の子たちを描くのは、やはり楽しい日々でした。

 

Q4 4世代にわたるお話ですが、その分、時代考証が大変だったのでは?

A4  80年代、50年代、20年代のアメリカの時代考証をしました。大変でしたが、調べるのが楽しくてかなり熱中しました。図書館に行ったりもしたけど、ネットで調べる時間が一番長かったです。アメリカの一般の方のアルバム画像を見まくったり、ホームビデオや記録動画を見たり。その時代の雰囲気に浸るために映画も何本か観ました。
20年代は資料が少なくて苦労しました。あってもお金持ちの記録が多くて。
自分も過ごした80年代を調べるのが楽しくて、原画展では80年代をテーマにトークイベントを開くことにしました。ぶっ飛んだ色彩やデザイン、やはりおもしろい時代だったなぁ、と。

資料ノートはこんな感じ。20年代の親子、部屋など。

 

Q5 翻訳担当のなかがわちひろさんとは、どんな打ち合わせをなさったんですか?

A5 お会いしたことはまだなく(近々開催される絵本の打ち上げで初対面)、メールでアドバイスをいただいていました。時代考証に必死になっているラフの段階で、現在の私、少女時代のお母さん、おばあちゃん、ひいおばあちゃんと、それぞれにどんな女の子なのかキャラクターがにじみ出るように、とか、小道具としてしか描けていなかったお人形も、女の子たちの未来の子どもの象徴である、など。
たくさんの絵本の翻訳を手掛けられ、ご自身も絵本を作り出されているなかがわさんだけあって、とてもためになる、考えさせられる意見ばかりで勉強になりました。
また、原作では洋服や人形、家の比較とともに「車」の比較もあったのだけれど、50年前の原書の車〜馬車という変化と違って、20年代にはもう車はあって。
私の絵に合わせて車を「商店」に変えてくださり、現在の絵本として楽しく生まれ変わらせることができました。

 

原書『THE SKY WAS BLUE』(1963年刊)では、女の子が人形を抱きしめている絵がラスト。
後から見て、自分の解釈との違いがおもしろかったです。

 

Q6 制作裏話的なものがあったら教えてください。

A6 原作に対しての制約はゆるく、版元からは設定を日本に変えてもいい、と言われました。でも自分に置き換えるとリアルになりすぎてしまうなぁと、原書通りアメリカを舞台にすることに。時代設定も自分で決めました。
私は実際は70年代に子ども時代を過ごしていますが、今まさに5歳の女の子のママである世代に合わせました。女の子も6歳でも7歳でもよいのですが、一番身近な自分の娘の歳に設定しました(本に挟み込んだペーパーに、主人公の女の子と娘が同じ歳で運命を感じた、と書きましたが、自分で決めたことを忘れていました! 
設定的にまさに自分と娘のど真ん中だったので、運命を感じたのでした)。

 

Q7 最後に、この本の読みどころを杉浦さんの視点でお願いします。

A7 いつの時代も変わらない、子どもたちを包む大きな世界。緑の草や青い空、そしてお母さんの子どもへの深い愛情。どんなことがあっても根っこの部分はきっと変わらない、と信じさせてくれる、やさしさに満ちた絵本です。
今まさに5歳の子どもより、もう少し大きい子どもと大人が楽しめる絵本かもしれません。
私は描きはじめる前から文章を読むだけで毎回、熱いものがこみ上げてくるほど感動していたのですが、5歳の娘には、彼女に置き換えて細かく説明しながら読まないと、いまいちピンとこないよう。
安心毛布にくるまれているまっただ中の子どもには、この尊さは理解しにくいのかも。
このすばらしい言葉のリズムが、どこかに引っかかって残ってくれると信じていますが。

 

●イベントのお知らせ

『そらはあおくて』原画展を開催します。
〝The Sky was Blue〟@パールブックショップ&ギャラリー。
(渋谷区西原2-26-5 京王新線「幡ヶ谷」徒歩5分)
2018年11月2日(金)~18日(日)
(会期中、月火はお休みです)
少しですが、絵本をテーマにした小品の販売も。
詳しくはこちらをご覧ください。

杉浦さんの在廊日は
2日(金)終日、3日(土)4日(日)14〜18時、9日(金)16〜19時、10日(土)終日、16日(金)16〜19時、17日(土)18日(日)終日 です。
(あくまでも予定ですからね)

 

そして会期中の11月10日(土)14時から、文筆家の甲斐みのりさんをゲストに「私たちのそらはあおくて」と題して、80年代のお話をします。
杉浦さんによりますと、
「絵本の時代設定にした1985年は、私は中学生、みのりさんは小学生。好きだったアイドルやキャラクター、漫画に『明星』に『オリーブ』、懐かしの少女時代の話をあれこれするつもり。特典ペーパーやお土産なども用意しています。」とのことです。
楽しみ!
参加費1000円(お茶と菓子付き) 
予約はこちらまで。888books.art@gmail.com


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